(7)相手の話を傾聴する
信頼関係を築くために、相手の話をしっかり聴き切るということは、きわめて重要な態度です。意見を挟みたくなったり、反論したくなっても、まずはいったん相手の考えを受け取る。その上で、一般化や普遍化はせずに、一人の当事者として「自分はこう思う、こう感じる」(*3)と、アイ・メッセージ(I Message=私を主語にしたメッセージ)を意識しながら、自分自身の言葉で語ることで、相手に意見が届きやすくなります。
(8)ロジックだけでなく、 感情の表出を大切にする
ビジネスの現場では、自分の感情を表に出すことは、しばしば「社会人らしくない」「大人気ない」と言われ、嫌がられます。“感情的”になることは避けたいところですが、自分がM&A後の激動のなかでどのような感情を持っているのか。恐れや不安、寂しさといったネガティブな感情が自分のなかにあることを認め、言語化することで、それらの想いを一歩引いて、俯瞰的に捉えやすくなります。想いを俯瞰的に捉えることができれば、扱いやすくなるとともに、ポジティブな側面に転換しやすくなります。参加者にも、感情を大切にする対話を促すことで、表面的ではない、深いやりとりが生まれてきます。
(9)気になったことは率直に発言してもらう
日本には「暗黙の了解」や「察する」という文化が根づいています。「言わなくてもわかってくれるはず」と思いがちですが、実際に正しく意図が伝わっていることは稀だろうと思います。異なる組織で働いていたメンバー同士のコミュニケーションであれば、なおさらです。対話の参加者には、少しくどいくらい、意見の前提になっている部分、そう判断した部分も含めて、言語化してもらうことが重要です。また、聴き手として、理解が不十分だと感じたら、「その意見の前提となる価値観や経験にはどのようなものがありますか?」と問いかけてみることで、対話が深まり、相互理解も促されていきます。
(10)上記の内容を“グランドルール”として設定する
活発なコミュニケーションを促すためには、参加者間で大切にしたいことを“グランドルール”としてあらかじめ共有しておくことが大切です。こうしたプロセスを丁寧に行うことで、「この場はいつものミーティングとは違って、お互いの想いを確認し合う場なんだ」ということを印象づけることができます。
PMIに対話のワークショップを取り入れているある企業では、「最初はうまくいかず、参加者の話が弾みませんでした。まずは5分とか、対話の時間を細かく切って取り組んでみました。20回もやっていくと参加者も慣れてきて、だんだん話せるようになっていきました」と、トライ・アンド・エラーを重ねるうちに、社員が対話に慣れていった様子を話してくれました。
●連載終了。ご愛読ありがとうございました。
《連載バックナンバーはこちら!》
第1回 M&Aを失敗させる『人と組織』の問題とは?
第2回 M&Aはなぜ社員に葛藤をもたらすのか?
第3回 M&A後の組織・職場づくりの視点とは?
第4回 M&Aの目的とビジョンを統合前に改めて明確にする理由とは?
第5回 M&Aの目的とビジョンを社員にどのように伝えるか?
第6回 M&A後の組織・職場づくりに、なぜ「対話」が効果的なのか?