読売ジャイアンツの長嶋茂雄監督時代、伝説となった「地獄の伊東キャンプ」での感慨を中畑清監督(横浜DeNA・当時)に聞いたことがある。

 中畑は長嶋の猛ノックを受けた。現役時代さながらの強烈な打球で、さすがの中畑もくたくたに疲弊した。それでも長嶋は打球を緩めない。激しく左右に振られることに頭に来た中畑は、徐々にノッカーに近づいていった。打球が顔面を直撃してもいいと中畑はグラブを構えた。

「このやろう!」という反骨心。長嶋は自分のポジションだった三塁を、逃げずに向かってくる中畑に任せてもいいと思ったのである。このとき選手たち(早稲田卒の山倉和博、松本匡史もいた)は体力を使い果たし、夕食前の風呂場で倒れて眠ってしまったというものすごさだった。

「雌雄を分けるような大事な局面を、この男に任せられるかどうか」

 猛練習の中で、それを監督は見ているのだ。

2022年春季リーグ
小宮山・早稲田は連敗スタート

 法政戦は1‐4、3‐4と連敗。互いの攻撃陣が初球からバットを振り切るアグレッシブな展開で、2試合ともにナイスゲームだった。

 開幕の土曜日、思わず胸が熱くなるシーンがあった。フィールドではなく一般立ち入り禁止の外野席での出来事だ。

 感染症対策のため、早稲田大学応援部の姿がレフトスタンドになかった。

 それでも1回表の早稲田の攻撃の前、校歌「都の西北」が穏やかな風に乗って流れてきたのだ。ライトスタンドの法政大学応援団からのエールだった。これが7回と9回にも。

 このエールに対し、早稲田ファンの集う三塁側内野席から力強い拍手が湧いたのだった。

(敬称略)

小宮山悟(こみやま・さとる)
1965年千葉県生まれ。早大4年時には79代主将。90年ドラフト1位でロッテ入団。横浜を経て02年にはニューヨーク・メッツでプレーし、千葉ロッテに復帰して09年引退。野球評論家として活躍する一方で12年より3年間、早大特別コーチを務める。2019年、早大第20代監督就任。