早大野球部・小宮山監督が「千本ノック」の猛練習を重んじる、筋の通った理由4月9日の法政戦。プレーボール前の練習風景 撮影:須藤靖貴

合理性を尊ぶ時代でも、小宮山悟監督は、猛練習を否定しない。自らのプロ時代の経験からも、数をこなすことに意義を見いだしているからだ。そんな中、2022年春季リーグ戦が開幕。選手に自主的に促してきた「猛練習」は実を結ぶだろうか。(作家 須藤靖貴)

2022年4月9日
春季リーグ戦が開幕

 4月9日。2022年春季リーグ戦が始まった。東京の空は朝から晴れ渡り、神宮の杜の葉桜もまぶしく、開幕にふさわしい爽やかな日和となった。

 この日は私淑する作家・井上ひさしの命日「吉里吉里忌」。野球を材に取った長篇もいくつかあるが、私が繰り返し読んだのは『ナイン』という短篇だ。炎天下の大会決勝で敗れた小学生チームの18年後を描く。高校教科書にも載る友情譚だが、含むところは複雑ですごみさえある。猛練習や試合でのその瞬間に、部員たちはどう向き合ったのか。

 スポーツ一般に通じるテーマのようだが、やはり野球だと思う。打席に立つ一人一人にスポットライトが当たり、その打順にもヒエラルキーがある。「主将で捕手、4番打者」とくれば、面倒見のよい頼もしいリーダーという描写になるのだった。

合理性を尊ぶ時代でも
猛練習は「イロハのイ」

「猛練習」という言葉は死語なのかもしれない。

 スポーツ理論、アスリート科学の発達した今の練習は合理性が尊ばれ、オーバーワークは弊害を招く。特に野球は習得技術が多岐にわたる。それらに時間を使うべきとの考え方によって、選手たちの技術面がレベルアップしてきたことも事実だろう。

 猛練習について、小宮山悟監督はこう言う。