ドラマや根性論だけでは
勝てないのが現実

伊賀 ドラマティックさや根性論が先行するとは言っても、それだけでは勝てないですよね。昔と比べると、トップアスリートの日本人選手の水準は全体的に相当程度、上がってきてると思うんです。それってやっぱり欧米的な分析手法やトレーニング手法、栄養管理学などが、徐々に取り入れられている結果なんでしょうか?

為末 そうかもしれませんね。以前のような「気合いでいけ!」というような精神論の世界に比べると、海外から取り入れたものを日本的なものに進化させてきてはいますね。2012年のロンドン五輪で銅メダルを獲った女子バレーボールの眞鍋政義監督などは、その取り組みが顕著です。

  まだまだ日本のスポーツ界は根性論が先行する部分がありますが、科学的手法やリテラシーが、一般の人たちレベルにまで浸透していないという点で、欧米との違いは大きいと思います。
  アメリカだと統計の数字が、雑誌とかでも多く出てくるんです。そういう科学的アプローチを一般レベルで結構好んでいろいろな雑誌にも書かれていて、世間一般の人たちがそういうものを好きなのかなって印象でした。

成長やチャレンジを阻む
日本の「王道信奉」

伊賀 小さい頃から海外の大会に出ながら育った選手は、ある程度までくるとコーチの言うことと自分の考えとの間で葛藤も出てくるんじゃないですか? 反対に、根性論の中で育てられた選手が、それ以外の価値観を持ちづらかったりすることもありますよね?

為末 そうだと思います。小さい頃からスポーツのチームにいた選手は、正々堂々感とか、王道を行く傾向が強くて、僕のような他競技への転向など、戦略的な作戦とかは逃げの象徴というようなイメージを持っているんです(為末氏は、高校生のときに短距離から400メートルハードルに転向した)。
  実際に、相撲からアメフトに転向して活躍したっていうケースもあるんですけど、どうしてもクローズアップされてなくて。

  やはり競技のミスマッチというのはあるんです。そこを認められれば、日本はもっともっと成長すると思いますね。