モヤモヤした葛藤を解消するための自問力とは?

 すでに抱えている葛藤を解消して、平穏な気持ちを手にするためには、どのような方法で自分に問えばよいのだろうか? 

島村 まず大切なのは、自分に生じた心の葛藤を否定しないことです。たとえば、「最近は忙し過ぎる。このままで本当にいいのかな?」と感じたときに、「考えても仕方がない」と流してしまわず、まずは立ち止まって考えるようにしてください。そして、自分の心の声を否定せず、ありのままに受け止めます。たとえば、親友の相談を聞くときや、上司が部下の話を傾聴するときと同じように自分の心の声を丁寧に傾聴し、受け止めるのです。先ほどの例だと、「そうだな、たしかに最近は忙し過ぎるな。このままでいいのだろうか?と思うのも当然だな……」といった具合です。ここで、「こんなに忙しいのは、自分の手際が悪いからだ、これは自分の力不足のせいだ」などと自分自身を否定してはいけません。さらにネガティブな循環に入ってしまいます。大切な人の話を聞くときと同じように、自分の心の声を大切なものとしてありのままに傾聴してください。これが自問のファーストステップです。

 

 ポイントは「堂々めぐりになりがちな思考を言語化し、客観的に見る癖をつけること」だと、島村さんは言う。自分の気持ちを流すことに慣れてしまっている人は、メモ程度でかまわないので日常的に気持ちを書き出す習慣をつけるのもいいだろう。そうすることで、特別な出来事があったときだけではなく、日々の小さな葛藤をキャッチすることを習慣化させやすい。葛藤をありのままに受け止めて、「自分に問う」ステップに移る。

島村 葛藤を受け止めたら、前提を覆していくような問いや、まったく異なる視点からの問いを自分に投げかけます。先ほどの例だと、「最近は忙し過ぎる」ということに対して、「どうしたら、忙し過ぎても問題ない状態になるだろう?」と自分に問いかけてみます。すると、「誰かに頼むことができる」というアイデアを仕組み化することで時間的な対策ができるなど、いろいろな考えが浮かんでくるはずです。「忙しくてイヤだなあ」とモヤモヤしているところに別の視点を与えたり、俯瞰して見たり、解釈し直したりしてみてください。そうすると、「自分はいかに小さな視点からしか見ていなかった」とか、「この逆境をむしろ前向きに利用できるかもしれない」など、新たな発見があるかもしれません。「違う見方もある」と気づくことで苛立ちや不安から解放され、気持ちが楽になり、状況を打開しやすくなります。葛藤を適切に受け止めても、ついつい、「自分の能力がないから忙しいままなのではないか?」「自分には強い意志がないからではないか?」などと、ネガティブな問いかけを自身にしてしまいがちです。自分をわざわざネガティブな方向へと追いやらないように意識しましょう。

 たしかに、葛藤を抱えたままにひとりで部屋に閉じこもっていると、視野はどんどん狭くなる。「もっと大きな視点でとらえたらどうか?」などとアドバイスしてくれる上司も同僚も近くにはいない。物事を自ら俯瞰的に見られるような問いかけをすることは、言い換えれば、「内省」を促す上司の役割を自分自身が担う、ということでもある。こうして自問自答を繰り返せるようになったら、その先には「周囲と繋がる」というステップがある。

島村 自問のプロセスを経て、自分なりに考えたことをチームに向けて発信することはとても大切なことです。モヤモヤとした葛藤のまま発信してしまうと、周囲がうまくそのメッセージを受け取れない可能性があります。場合によっては、周囲も自分も誤った判断をしてしまう可能性もあります。心のモヤモヤを言語化するのはなかなか難しいのですが、相手も、その“言語化できていないモヤモヤ”を理解するのはそれ以上に難しいわけです。したがって、「自問」のステップが大切になります。自分としっかり向き合って考えたうえでの適切な発信であれば、周囲はその情報を前向きに受け止めてくれるでしょう。若手社員の中には、「思っていることや悩んでいることを発信することは周囲の迷惑になるのではないか?」と考える人が意外と多いです。しかし、それは間違いです。悩みを適切に発信することはマネジメントサイドにはありがたいことなのです。悩みを適切に伝えることはチームへの貢献になるという理解が発信者側には必要なのです。リモート環境下でコミュニケーションの断絶を防ぐという観点からも、このステップは非常に重要です。