管理職・リーダー層にとっても欠かせない自問力

 ここまで、若手社員を中心に「自問」について考えてきたが、もちろん、経営者や管理職などのリーダー層も自らを成長させるため、さらには組織そのものを成長させるために自分に問い続ける必要がある。島村さん自身が講師を務める「リーダーシップ研修」の中でも、自分に問うことの必要性を島村さんは研修受講者に説き続けている。受講したリーダー層からは、「自問は、何か大きな問題が生じたときだけに必要なのではなく、習慣化することが大切なのだと気づいた」といった声があがるという。

島村 リーダー的な立場の人は、日々、「多くのメンバーをもっとやる気にするにはどうしたらいいだろうか?」と考えています。そのような思いの中で、組織のビジョンやパーパスについて自問することが多くあります。「自組織が果たすべき役割は何だろうか?」「我が社は、社会にどのような価値を提供しているのだろうか?」と自分に問い続けるわけです。リーダーシップには「lead the self、lead the people、lead the society」という3つのステップがあり、まずは、「自分自身をリードできなければ組織をリードすることはできない」というのが定説です。「自分に問う」ということは、最初の「自分をリードする」というステップにおいて非常に重要です。自分に問うことをやめたときに、他者はついてこなくなるということです。その意味で、自問を習慣化することはたいへん重要なことだと考えています。

 さらに、リーダー層は部下に対して自問の習慣をつけることの重要性を伝え、「自分に問い続ける」ことに対して、支援していく用意があるというメッセージを出すことが求められる。

島村 上司も部下のマネジメントについていろいろな葛藤を感じています。リモートワークという離れた環境で部下が考えていることや感じていることなど、わからないことが多いため、フォローをし切れない場合があります。そこで、上司も「離れた環境にいる部下に何ができるだろうか?」と自問するようにします。その上で、部下に対して、素直に現状の気持ちを発信するわけです。「リモート環境下では、悩んでいることに気づかず、フォローしきれないこともあると思う。私もなるべく声をかけるようにするけど、何か悩んでいることや葛藤を感じることがあったら、まずは自分で考えたうえで、早めに共有してほしい」と伝えるわけです。このように支援をしていく用意があることを伝えることで、部下本人が安心して自問し、自分で答えを出すのを習慣化しやすくなります。

 島村さんは、コロナ禍の上司から「入社時からリモートワークなので、顔をほとんど合わせたことのない部下にどのようにして愛情をかければいいのかわからない……」といった戸惑いの声を聞くこともあるという。上司が自らに問いかけ、また、部下に「自問の習慣化を促す」ことで、そうした問題を解決する糸口がみつけやすくなる。

島村 仕事の進捗を確認するだけでは、上司も部下も双方から愛情を感じることはなかなか難しいでしょう。成果を意識しながらも、心に感じている前向きな気持ちや悩ましい葛藤を双方が適切にその気持ちをオープンにすることで、お互いに感情的な繋がりを感じることができるようになるはずです。

 長らく、ビジネスにおいては、お互いの感情に意識を向けたり、オープンにすることよりも仕事をとにかく前に進めることに意識が置かれてきました。しかし、リモート環境下が浸透する状況においては、チームから離れ、会社から離れ、人から離れていく感覚がある中で、想像以上に気持ちが揺さぶられることがあります。そのため、それぞれが自問することを通じて、気持ちをオープンにし、お互いにそれらを共有し、話し合い、習慣にする過程で、いままで以上にお互いの繋がりを感じられるようになってきました。ですから、自問する力は若手だけでなく、これからの時代の全ての人に必要となるでしょう。そして、会社や仲間と離れた環境で仕事をしていくうえで、なくてはならないものとなるでしょう。

 また、自問する習慣は、会社という物理的な空間にいなくても、ビジネスパーソンとしての価値観を育て、社会に貢献しようという強い意欲を芽生えさせることもできます。リモートワークが日常化している企業であれば、一人ひとりの自問する力の大小が仕事の成果や組織としてのあり方を大きく左右することになっていきます。ぜひ、一人ひとりの自問する力を最大限に高め、一人ひとりのリーダーシップを高め、組織全体のリーダーシップの総量を高めていきましょう。