経営の中枢 CFOに聞く!Photo by Sinnosuke Miyazaki

三井物産は資源価格の高騰なども追い風に、ここ数年で純利益の水準を1兆円前後に一気に押し上げた。では同社の財務戦略とは。長期連載『経営の中枢 CFOに聞く!』の本稿では、三井物産の重田哲也CFOが、最重要指標を挙げたうえで、成長投資と株主還元については「二兎を追う」と断言する。また、重田氏は成長投資と株主還元の具体的な方針も明らかにする。(ダイヤモンド編集部 猪股修平)

三井物産は「市況下落=業績減」ではない
KPIはROE、投資と還元の「二兎を追う」

――トランプ関税や地政学リスクなど外部環境が激変しています。財務面でどのような対応策を講じているのでしょうか。

 財務部門は市場、信用、為替、それぞれのリスク管理に注力するのが伝統でした。そこに最近は地政学や環境、サイバーセキュリティーといったリスクが加わりました。リスクは年々複合的になってるので、複数の事象が重なれば大きな打撃になってしまうとのイメージを大事にしています。

 地政学リスクを避けるための事業分散もあれば、地理的な分散、新興国・先進国間の分散もあります。さらに、中長期と短期の取り組みでもバランスを取る必要があります。それが景気変動に対するリスクヘッジです。それが生きた例が新型コロナウイルス禍で、サプライチェーンの分断があっても、顧客にソリューションを提供することができました。

 トランプ関税で言えばグローバルでの景気低迷を懸念し、少し保守的な事業計画を立てましたが、米国では、国内完結型のビジネスがほとんどを占めていて、関税の直接的影響は比較的小さいとみています。

 金利リスクについては、資金調達は長期借り入れで変動金利を主体にしています。利上げがあると短期的には金利負担増にはなり、業績の下押しになりますが、長期的に見れば、金利上昇は多くの場合、景気の過熱や価格上昇を抑制し、時差はありますが金利低下へと局面が変わります。将来的には上昇による負担増を、低下による負担減でキャッチアップできると考えています。

 市況リスクでは、三井物産は「資源が多いので市況が下がれば、業績が下がるよね」とよく言われます。私は「いやいや実はそうじゃないんですよ」と説明しています。

 もちろん市況の変動の影響は受けますが、実は、資源ビジネスでは、物流など手数料ビジネスの面もあります。つまり、単純に「(資源を)掘った数量×相場」ではないのです。資源ビジネスに関しては、市況に左右されない手数料ビジネスなど安定収入の割合を増やす努力をしています。

――三井物産が重視する財務上のKPI(重要業績評価指標)は何でしょうか。

 ROE(自己資本利益率)の向上を中心に据えています。来年度までの3カ年の中期経営計画では3年間平均で12%超が目標です。コングロマリットとして長期的、持続的な成長モデルを維持する必要があります。

 そのために成長投資の持続的な積み上げと、継続的に投資してもらうための投資家や株主にとっての資本リターン向上のバランスが重要です。成長投資の積み上げと株主還元の「二兎を追う」と申し上げれば良いでしょうか。このバランスを定量的に確認していくにはROEが最適だと考えています。

――積み上げが重要だという成長投資の状況はいかがでしょうか。

次ページでは、重田氏が成長投資の具体的な方針について明らかにするほか、配当や自社株買いなど株主還元の考え方についても説明する。また、最重要指標に挙げるROEについて、競合他社との差についても見解を明らかにする。