「研修内製化」――企業・団体が、外部の研修提供会社に委託して自社の従業員に「研修」を行うのではなく、自社内で研修コンテンツを作り、人事部などが企画・運営するというもの。しかし、「内製」に明確な定義はなく、研修提供会社が作ったコンテンツを、自社用にカスタマイズする方法などもある。内製と外注、オンラインと対面……コロナ禍において、企業の研修はどう変わってきているのか? オンラインでの研修は、「内製」にどう影響しているのか? 「社内講師養成コンサルタント」として活動中の鈴木英智佳さん(株式会社ラーニング・クリエイト 代表取締役)に話を聞いた。(フリーライター 狩野 南)
「研修」もオンライン化によって変わりつつある
新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大から2年以上がたち、私たちの働き方は大きく変わった。企業における「研修」も例外ではない。コロナ禍がもたらしたオンライン・コミュニケーションに沿いながら、「研修」のあり方は、この2年あまりの間に、どう変化しているのだろう。
鈴木 コロナ禍の初頭は、不要不急の研修は延期し、必要な研修だけを対面からオンラインに置き換えて行う企業も多かったのですが、昨年2021年以降は、コロナ禍の長期化を見据えて、オンラインを前提とした研修コンテンツが目立ってきました。
そもそも、対面で終日行うような、これまでの研修スタイルがよかったのかどうかが見直されています。各地から受講者を集め、移動や宿泊のコストをかけて、長時間拘束していたやり方で、相応の価値を生み出せていたのだろうか?と。それに対し、オンライン研修は運営コストを最小限に抑えつつ、短い時間でも小刻みに実施できます。丸1日や連日などまとめて詰め込んでいた研修コンテンツを、複数回に分けてシリーズ化することも可能です。たとえば、新人を指導するOJTトレーナーは、入社したばかりの新人の話を聞いてあげたり、新人にわかりやすく指示を出したりする必要がありますが、新人の配属から半年が経過する頃には、新人に自立してもらうためにも、期待水準に満たない時は厳しくフィードバックする(叱る)ことが必要になってきます。ただ、OJTトレーナーになりたてのタイミングで新人に対する叱り方を学んでも、その時は時期尚早で、実践する機会がすぐにありません。それが、シリーズ化したオンライン研修なら、OJTトレーナーになる時点で3時間、OJTトレーナーになった半年後に3時間といったように細分化して研修の実施ができます。
オンライン研修には、Zoomなどを使用して行うライブ配信での研修と、収録済みの動画で学ぶオンデマンドの研修がある。コロナ禍でリモートワークが増えたこととあいまって、動画でのそうしたオンライン研修は、コロナ禍前よりも格段に実施しやすくなっている。
鈴木 たしかに全体的にオンライン研修は増えていますが、活用度合いは、各企業のワークスタイルによって差が出ていると感じます。オフィスに出社することが前提の企業は、研修も対面を重視する傾向があるため、感染状況に振り回され続け、研修自体が止まってしまうことも多いようです。一方、リモートワーク前提の企業は、研修にもオンラインを積極的に取り入れ、従来以上の効果をあげているところがたくさんあります。ワークスタイルの差が、研修施策にも大きな影響を及ぼしているのです。
鈴木英智佳 Hidechika SUZUKI
株式会社ラーニング・クリエイト 代表取締役
ORSCC(Organization & Relationship Systems Certified Coach)、全日本能率連盟認定マネジメントインストラクター、日本アクションラーニング協会認定ALコーチ、青学ワークショップデザイナー育成プログラム修了
1997年、慶應義塾大学商学部卒業。花王株式会社にて人事部門に在籍後、教育研修ベンチャー企業に転職。研修プログラムの開発・個社向けカスタマイズから、講師担当の責任者として、100名を超える契約講師の採用・育成・アサインまで研修提供の全プロセスをマネジメント。2011年に独立し、ラーニング・クリエイトを設立。“学びの設計・学びの場づくり”を体系的に指導する「ラーニング・コーディネーター」として、企業の研修内製化を支援。著書に、『爆笑する組織~会社を強くする「だじゃれ」仕事術~』(自由国民社)、『研修開発入門 研修転移の理論と実践』(共著・ダイヤモンド社)がある。