ウィズコロナ時代の「研修」に求められるものは?
経営トップの方針から「内製化の必然性」が生まれ、現場の社員を研修講師にして希望者への研修を実施する――長期的・組織的に内製化を進めていくためのポイントが生かされた好事例だろう。続いて、鈴木さんが語ってくれたのは、ある経営コンサルティング会社のケースだ。
鈴木 その企業は、7〜8年前から、現場のマネージャーが講師を担う「社内講師制度」を導入しています。マネージャークラスの人たちが社員の教育に関わることも人事評価の一部になっているので、研修講師であることは、「業務の一環」なのです。社内には、毎年50人くらいの講師が存在しているのですが、業務の特殊性・専門性が高いこともあり、階層別研修も含めて、大半が内製化されています。
2020年以降はリモートワークが中心となったため、私からは、オンライン研修ならではのコンテンツの設計のポイントなどを指導させていただきました。この会社のユニークなところは、50人の社内講師のうち、半数が「研修企画担当」、半数が「研修講師担当」と役割が分かれている点です。多くの企業では、一人の社員が研修の企画も講師も担当するのが一般的ですが、それだとオーバーワークにつながる可能性が高く、同社は役割を分担することで負荷をうまく分散しています。
ウィズコロナ、アフターコロナの時代で、今後、企業の「研修」はどうなっていくのか? どうあるのが望ましいのだろうか?
鈴木 コロナ禍により、「研修」のあり方は大きな転換期を迎えています。リモートワークをきっかけとした前述の「研修の短時間化」の傾向により、これまで以上に現場側の研修実施に対する風当たりは強くなっています。「そもそも、なぜその研修をやる必要性があるのか?」――それに明確な回答を示せない研修は実施そのものを見直していく必要があります。また、過去のやり方を踏襲するのではなく、より適切な運営形態、実施方法を見極めていく「目利き」の役割が研修担当者には求められています。研修の内容と目的によって、内製するものと外注するもののすみ分け、さらに対面で実施すべきかオンラインでよいのかなど、より的確に判断しながら研修企画を進めることが大切です。
また、個人的には、「研修」には、日常の業務の中により質の高いコミュニケーションを創出するきっかけづくりという重要な機能があると考えています。メールを中心に日常のコミュニケーションはどうしてもタスクのやり取り中心になりがちです。しかし、その奥には必ず個々の問題意識やアイディア、感情があるはずなので、研修の場を活用してそうした深い部分を意図的に扱うことによって、より創造性と活力が溢れる職場づくりにつなげられると考えています。オンラインでのコミュニケーションが当たり前となって、意思の疎通が希薄になりかけているいまこそ、日常のコミュニケーションにレバレッジを利かせる起爆剤として「研修」をより効果的に活用していくべきではないでしょうか。