研修のオンライン化は、「内製化」の追い風?

 企業における研修の「外注」と「内製」の定義は定かではないが、基本的には研修プログラムコンテンツを提供する会社に運営を委託したり、外部の講師を招いて行ったりする研修が「外注」、社内リソースで行う研修が「内製」といえるだろう。また、外部の研修コンテンツを利用したうえで研修講師が自社社員の場合も「内製」のひとつと考えられる。

 コロナ禍で需要が高まっているオンライン研修は、そうした「研修」の内製・外注に影響を与えているのだろうか。

鈴木 コロナ禍により、企業の研修の内製化が進んだかどうかはなんともいえません。ただ、オンラインでの研修が増えたことは、「研修内製化」の追い風になっているかもしれません。

 一口に「内製」といってもさまざまなジャンル、テーマがありますが、自社の商品・サービスや、独自の専門技術・ノウハウを伝えるようなコンテンツはオンラインに適しているように思います。なぜなら、こうしたコンテンツは、社内システムやWeb情報など、複数の資料を閲覧しながら講義を進めることが多く、オンラインであれば、随時、画面を切り替えながら進めることができるからです。また専門性が高いものほど、1〜2時間程度の短時間で完結するものも多いと考えられます。対面で実施する場合、会場設営、資料配布など準備の負荷も大きいので、小回りの利きやすいオンライン研修は、この点においても、「内製」を後押しするのではないでしょうか。

 外部への発注コストを抑えて、企業にとってのメリットも大きそうな「研修内製化」。とはいえ、「すべての研修を内製にすればよいというものではない」と鈴木さんは語る。

鈴木 内製すべきかどうかを見極めるには、2つの軸があります。1つは、「開発の負荷」。開発の難易度や研修内容の可変性ですね。もう1つの軸は、「コンテンツの独自性」です。この2つが高いものほど、「内製」に向いているといえます。企業理念の浸透や行動指針・開発や営業のノウハウなどがそれに当たります。自社の商品理解や独自の専門技術、たとえば、そのメーカー独自の原価計算手法など、その企業に脈々と受け継がれてきているものは「外注」の研修で伝えることは難しいでしょう。逆に、2つの軸が低いもの――たとえば、一般的なマナー研修やプレゼン研修といった汎用性のある内容は、外部の研修会社が良質なコンテンツをたくさん保有しています。「内製」と「外注」の双方を上手に使い分けていくことが重要です。

 内製化にとって追い風に見える研修のオンライン移行だが、「内製」の研修にしても、「外注」の研修にしても、「研修のオンライン化には、注意しなければいけない点がある」と鈴木さんは言う。

鈴木 単純に対面研修の内容の置き換えだけではうまくいきません。オンラインの場合、目安として、コンテンツのボリュームを対面の7割にすることを私は推奨しています。なぜなら、オンラインの場合、受講者が長時間の集中力を保つのが難しく、また受講者の通信環境の差によって生じるタイムロスもあります。対面での10割を伝えようとすると間違いなくオーバータイムになってしまいます。加えて、受講者を飽きさせることなく、小まめに巻き込むための工夫も必要です。

 外部制作による研修動画を活用する企業も多いですが、これも注意が必要です。単純に「見ているだけ」では高い研修効果は望めません。教育研修の担当者は、「なぜ、その研修を行うのか? その研修を行うことによって、受講者にどのような行動変容が起きればよいか?」を考えていく必要があります。