人材育成に経験学習を取り入れることの高い価値

 経験学習サイクルをいつまでたっても自分で回せるようになれない社員(「内省」ができない社員)に、管理職はどう向き合うべきか――その第3として、マネジャーは部下にすぐに答えを与えないことが求められる。部下にすぐに答えを与えてしまうと、部下は自分が向き合うタスクについて自分で考えることをやめ、答えを上司の頭の中から探すようになる。上司の頭の中に答えを探す部下は上司以上の人材には成長できない。要は上司の劣化コピーの再生産になってしまうのだ。これを防ぐために、管理職が部下に向き合う適切な方法を考えていきたい。古い教育学の考え方に「線路型」「放牧型」、そして、「ガードレール型」という3つの教育方法がある。「線路型」とは、仕事のゴールに向かって、マネジャーが敷いたレールの上を部下が同じ速度で、レールからはみ出ることがないように指導されることである。部下は最も早くタスクを遂行することができるかもしれないが、自分の頭を使ってタスクをこなしたわけではない。「放牧型」とは、部下が好き放題、勝手な方向に向かって走り回っているイメージである。仕事のゴールが不明確であり、役割も明確に与えられていない、いわば、放置に近い状態である。「ガードレール型」は、仕事のゴールは示されているが、部下がタスクを遂行するためのプロセスは任されていて、ガードレールをはみ出しそうになるとコーチングをされる。部下はゴールを目指すために、いろいろと試行錯誤する。当然、ゴールにたどり着くのは線路型よりも遅くなるかもしれない。しかし、“仕事をこなしながら思考をこらす。やってみたことがうまくいかなければ、何故うまくいかなかったのかを内省し、新たな打ち手を考え、また試行する”――この試行錯誤が、部下の学びにつながるのである。

 ここまで、経験学習と、その理論の現場での活用についていくつかのアイデアを提案させていただいた。しかし、私の提案以外にも経験学習を機能させるための多くの施策がある。その代表的なものが1on1ミーティングである。あまりにも有名な施策のため、本稿では言及を避けたが、正しく活用すれば経験学習を機能させる効果は大きいと考えられる。人的資本の最大化が企業に求められているなか、経験学習を駆動させる仕組みを、人材育成の仕組みに組み込むことが求められている。