教育担当者や管理職がまず取り組むべきことは…

「リフレクション」とは、仕事を経験した後に仕事の成功要因や失敗要因について適切に振り返ることである。立教大学経営学部の田中聡先生の最近の研究によると、個人で振り返るだけではなく、上司・先輩などのフィードバックを自分からもらいに行く「フィードバック探索行動」がパフォーマンスにつながることが示されている。そして、良質なフィードバックを獲得するためには、社内外に信頼できるネットワークを持ち、いつでも“壁打ち”ができる環境を持つことが必要になる。

 さらに、成功体験の振り返りが大切になる。日本人は失敗体験を振り返ることは得意だが、成功体験を振り返ることが少ないとも言われる。アメリカの心理学者バーバラ・フレデリクソンの拡張‐形成理論によると、人間は成功体験を振り返ってポジティブな感情を持つことで自信を持ち、その自信をもとに仕事範囲を拡大し、より大きな仕事経験を積むことで新たな知識・スキルを獲得し、より成長していくという。成功体験の振り返りが汎用性の高い教訓につながるのであろう。

「エンジョイメント」とは、仕事を意味づけ、やりがいを感じる力のことである。イメージをつかんでいただくために、ケネディ大統領がNASA(アメリカ航空宇宙局)を訪問した際の逸話を紹介する。政府関係者・報道陣・NASA関係者でにぎわう中で、ケネディ大統領はフロアの床を楽しそうに磨いている清掃員を見かけた。大統領は楽しそうに仕事をしている清掃員が気になり、声をかけた。「なぜ、そんなに楽しそうに掃除をしているのかね?」、すると、清掃員は「私は、人類を月に送る手伝いをしています。これほどやりがいのある仕事はないです」と答えたという。このように、仕事の目的をポジティブに捉えなおすことが仕事のやりがい(=エンジョイメント)につながり、ストレッチな仕事にも挑戦するようになるのである。

 それでは新入社員に経験学習を身につけさせるために、教育担当者や管理職はどこに力点を置けばよいのだろう。

 まず、教育担当者として取り組むべきことを、企業の事例をもとに紹介したい。経験学習の習慣は、できれば、入社3年以内に習慣化させることが望ましい。経験から学ぶための技術を身につけさせることが企業の求める若手社員の早期戦力化につながるからである。

 教育担当者として力を入れるべき点として第1にあげられるのは、すでに多くの企業で取り入れられているが、OJT担当者をつけることである。入社したばかりの新入社員が自力で経験学習を回すのは難しいので、OJT担当者をつけて、1年間かけて新入社員を導かせるのである。もちろん、OJT担当者には教育が必要である。経験学習に関する知識はもちろん、リフレクションを促す面談の手法も身につけさせる必要があるだろう。この時に注意すべきは、OJT担当者の選抜についてである。職場の状況によって難しい点はあるかもしれないが、できれば「グロースマインドセット」を持った人材を任命することである。「グロースマインドセット」は、スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授が提唱した概念で、「人の能力は、経験や努力によって高めることができる」というものである。これに対し、「フィックストマインドセット」という概念があり、それは「人の能力は固定的で、生まれつき決まっている」というものである。そして、グロースマインドセットを持つマネジャーは部下を成長させようとする傾向の強いことが、管理者コーチング研究*3 において示されている。 OJT担当者の選抜は現場の管理職に任せるしかないが、任命される予定のOJT担当者が、「新たなスキルや知識を高めるような機会を探している様子があるか」「新たな学びを必要とするタスクに取り組むことが好きか」などを観察して決定すべきであろう。逆に、学歴に過度にこだわる人などはフィックストマインドセットを持っている可能性が高いので注意すべきであろう。

*3 Peter A. Heslin教授(ニューサウスウェールズ大学)による研究