「内省」ができない社員への向き合い方を考えていく
教育担当者として力を入れるべき2点目は、面で育てることを心掛けることである。立教大学経営学部の中原淳先生は、職場での社員の能力向上は上司をはじめ、先輩社員、同僚からの業務支援・精神支援・内省支援によることを示した上で、上司、先輩社員、同僚からの内省支援が最もパワフルであることを指摘している。OJT担当者を任命すると、任命された担当者は新入社員の育成を抱え込んでしまうこともあるため、職場全体で新入社員を育てるという意識の啓蒙が教育担当者には求められる。具体的には、職場メンバーの“得意技リスト”などを新入社員が配属される前に作成し、配属日に新入社員に渡してあげるなどの方法がある。そうすると、新入社員は“困ったときに聞くことができる先輩リスト”を手に入れたことになる。
3点目は、新入社員を観察するためのツールを現場に提供することである。例えば、新入社員が経験した仕事を記述させ、OJT担当者と交換日記のようにやり取りさせるノートを用意すれば、記述させた経験をOJT担当者との面談で振り返ることによって経験学習の習慣化につながる。また、日々の仕事経験を感情面も含めてノートに書かせることで新入社員の状況を定点観測するツールとして活用することができる。新入社員が会社に入ることは、真っ暗な洞窟に迷い込んだようなものである。しかし、何が見えて、何が見えないのかは周りの人間には見えない。その時に新入社員が定期的にヘルプを発するツールとしても活用できる。この時に留意すべきは、OJT担当者とやり取りさせるだけではなく、上司コメント欄などを設定し、上司にもコメントさせることである。このことによって、面での育成も実現できる*4 。
*4 参考記事 早期離職の防止にもなる、「経験学習」での新人教育のノウハウ(HRオンライン)
最後に、経験学習サイクルをいつまでたっても自分で回せるようになれない社員(「内省」ができない社員)に、管理職はどう向き合うべきかを考えてみたい。
第1に、職場をリフレクティブな職場にすべきであろう。もちろん、タスクの終了後に、その成功要因や失敗要因を綿密に分析することは重要である。これに加え、メンバーが定期的に、経験した仕事を振り返る機会を設定したり、個人の成功体験を職場全体で共有するための仕組みを作ることも必要であろう。職場での会議の中で、短時間でよいので経験の振り返りの機会を定期的に設けることは、内省ができない社員が振り返りを習慣化するための契機になる。
第2に、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授の提唱した、心理的安全性のあるチーム作りに取り組むべきであろう。心理的安全性とは「こんなことを言ったら上司の気分を害してしまう」「自分の意見を言っても聞いてもらえない」「間違ったことを言うとバカにされる」などの「対人リスクがなく、チーム内で何を言っても安全である」という、チーム全員の信念のことである。心理的安全性は、これまで多くの研究者により、パフォーマンスや学習への影響が示されてきた。例えば、心理的安全性の低い職場では、発言すると責められてしまう可能性があるので、オープンなコミュニケーションが阻害される。そうすると、取り組んでいる仕事に関して他者からの有効なフィードバックを得にくい状態となり、経験学習が機能しにくくなり、メンバーは経験から効果的に学ぶことができなくなる。では、管理職は心理的安全性のあるチームを作るためにどうすればよいのだろう。エドモンドソン教授は、心理的安全性のある職場を作るためのマネジャーの振る舞い方として、「マネジャーが、話を直接できる“親しみやすいマネジャー”であることを示す」「マネジャー自身も間違うことを明らかにする」「答えを自分が持っているわけではないことを認める」「自分もよく間違うことを積極的に示す」「失敗は学習する機会であることを強調する」などを提示している。現場の管理職は、これらの振る舞いを参考に、日ごろの自分の振る舞いを内省する必要がある。