「いつからでも、どこからでも学べる」仕組みを構築

永田 事業を取り巻く環境が変わるとともに、学びに対する社員のそれぞれの姿勢も変化しているのでは? 研修を提供する側として、新たな「学び方」の促進などはありますか?

中村 3つあります。1つ目は「いつからでも、どこからでも学べる」ようにしたこと。というのも、当社では2018年に地域会社などのグループ15社を統合したために、ダイナミックな事業転換や配置転換を行う必要がありました。経験値のない仕事に突然就かなければならない社員のためにも、入社してから階層別に実施してきた研修だけでなく、いつからでも、どこからでも学び直せる仕組みを構築する必要があったのです。2つ目は「知識・スキル獲得のパラダイムシフト」です。単に知識をつけるだけではVUCAの時代を生き抜くことはできません。一人ひとりが自分で考え、行動し、成果を生み出せるように学びをサポートしていく必要があります。3つ目は「学ぶチャネルの多様化」。これまでは集合研修のみでしたが、外部スクール、通信教育、eラーニング、SNS、アプリなど幅広い方法で学べるようにしました。

永田 JTBユニバーシティの基本方針そのものも見直されたと伺いましたが、どのように変わったのでしょうか?

中村 基本方針は、新たに3つにまとめました。1つ目は「社員の能力を高め、専門性を磨く学びのコンテンツの提供」、2つ目は「社員一人ひとりに“必要なときに、必要な学び”の機会の整備」、3つ目は「学び合い、学び続ける組織の風土醸成による行動変容の促進」。「研修を受けてよかった」で終わるのではなく、行動変容を起こすところまでもっていくことが重要なのです。

永田 「社員一人ひとりに“必要なときに、必要な学び”の機会」ということで、かなり多くの研修コンテンツを用意されているようですが……。

中村 JTBユニバーシティでは対面コミュニケーションを重視していたこともあって、研修施設内で多人数を対象にした集合研修を行っていましたが、それだと「一人ひとりに合う研修」というものをなかなか実現できませんでした。そして、コロナ禍によって集合研修そのものができなくなったこともあり、この2年あまりでeラーニングのコンテンツが一気に増えました。2021年度は延べ1万3000人ほどが受講し、その約半数がeラーニングという結果になりました。2022年度からは、eラーニングが“学び放題”となり、現在、コンテンツの数は1000以上ありますが、今後、当社のオリジナルなものと外部制作のものを合わせて、さらに増やしていきたいと思います。

永田 “学び放題”という状況で、社員は個々人の課題に応じて、必要な講座に必要なだけアクセスできるわけですね。膨大な研修コンテンツのなかから、自分が必要なものを選んでいくのは難しくありませんか?

中村 毎年社員が作成する目標シートには、自己成長目標を記入する欄があって、年度始まりに、「問題解決力を伸ばしたいので、それに関する研修を受ける」などと書かれます。上長は、そうした目標の達成を支援し、実際に研修を受講したかどうかのチェックを行っていきます。また、まだ精度は低いのですが、コンテンツの画面にはレコメンド表示がなされます。将来は、たとえば、業績の高い人が受講した研修履歴をAIがディープラーニングし、「課長を目指すなら、この研修をおすすめします」といったレコメンドが届くようになるでしょう。