研修の価値は、研修後に受講者の行動が変わっていくこと

永田 御社にはグループ会社横断で人材育成するプラットフォームとして、JTBユニバーシティ*5がありますね。“The JTB Way”や人材に関する基本理念の見直しとほぼ同じ時期に、そのJTBユニバーシティの改革も実行されたと伺いました。改革に至るには、どのような経緯があったのですか?

*5 JTBユニバーシティでは、広くツーリズム産業の発展に貢献する人財の育成を目指して、日々の業務に必要な基礎知繊やビジネススキルから経営人財育成プログラムまで、社員の能力や階層に合わせて成長できるカリキュラムを整え、人財育成を実施している。(JTB「学び・人財育成」ページより)

中村 個人的な話になりますが、2017年に私が55歳を迎えた後、講師としてJTBユニバーシティに着任しました。そのとき、先輩講師から「研修を受けて満足した人も職場に戻ると研修内容を忘れてしまうので、研修施設から(帰途の)駅につながる橋のことを“忘却の橋“と呼んでいる」という冗談のような話を聞いて呆然としたのです。社員研修という多額の投資の結果、“忘却の橋”で忘れられてしまうようなものに意味があるのだろうか? と。

永田 それで、中村さんは、各研修が受講生の記憶にどの程度残るのかを調べることにしたわけですね。研修後のアンケートをテキストマイニング*6 にかけたと伺いました。

*6 自由形式で記述された文章の単語や文節を分割し、出現の頻度や相関関係を分析したうえで、有益な情報を発掘(マイニング)すること。

中村 同じ研修であれば、講師が違ってもアンケート結果に大きな違いはないはずですが、受講生の感想文を分析すると、講師が何を強調するかによってインプットされる内容が全然違うのです。それが、テキストマイニングで分かったので、「指標化すれば、研修の品質向上につなげることができる」と思い、外部コンサルタントに分析を依頼しました。結果、「御社の研修の満足度は総じて高いようです。同期との交流を通じて、刺激を得る場所になっていることも分かります。ただ、意識変容や行動変容の実感は乏しいです」と言われました。特に必修としている研修は、「上長に言われたから」という受け身の受講者も多く、そうすると、 “忘却の橋”を渡りがちになるのです。

永田 たしかに、研修の内容をその場で理解しても、日常仕事で忘れてしまっては研修を受けた価値がありませんね。研修後には、受講者の意識や行動が変わる必要があるでしょう。

中村 研修の価値は「最終的に行動が起きたかどうか」に尽きるのです。そう確信して、JTBユニバーシティは「行動変容を起こす研修を目指す」という考え方を柱に据えることにしました。そして、私自身は2019年に人財開発・企画グループに異動し、「指標を用いて研修の効果を測定することで、行動変容につながる研修をつくる」という提言をまとめました。

永田 そうした流れで、JTBユニバーシティの改革がなされていったのですね。

中村 まずはパラダイムシフトを起こさねばということで、「社員を育てる」という考え方を「社員が自ら育つ、社はそれを支援する」に、研修の目標を「理解・気付き」から「行動変容」に変えました。