加えて、ライター氏はもともと学力が高く、国語力、文章力が備わっているとしよう。ますます良いが、こうした人材は金融界に少なくないはずだ。

 次は、ライターと編集者が著者にインタビューして、原稿の基になる内容を取材するプロセスだが、これは100%オンラインで可能だ。事前に詳しい構成案を作っておくことをお勧めするが、例えば、2時間のインタビューを5回行うとする。まず、ここで10時間だ。現在の機器を使うと、インタビューは動画で録画できるし、話と同時に大まかな文字起こしができるので、ライターは原稿の材料には事欠かないはずだ。

 仮に1冊の文字量が8万字として、1時間で2000字ほど書くとすると、下書きとなる文章の作成に掛かる時間が40時間だ。編集者や著者から注文が入って原稿に手を入れるかもしれないので、もう10時間余裕を見て50時間としておこう。

 極めて順調に進むと仮定すると、著者が下書き原稿に手を入れる時間を10時間取って、いわゆる初稿のゲラが作成され、校正者のチェック、著者の確認、再校のゲラなどとプロセスが進んで書籍が完成する。初稿のゲラから後は、ライターが関わることはほとんどない。

 ライターが有能だと、著者は大いに時間を節約できるのだが、これがなかなか予定通りにいかない現実がある。ニーズのあるところにはビジネスの可能性があるので、副業ライターにはチャンスだ。

副業ライターの収入は幾ら?
書籍30万部で1000万円超の夢も

 さて、これで収入は幾らになるのだろうか。

 書籍の売価が1400円で、ライターの取り分が印税で3%だとしよう。初版が1万部なら、42万円の収入だ。60時間かけているので、時給7000円の副収入だ。少し夢を持ってもらうために、本が3万部刷られた場合は126万円の収入になり、30万部なら1260万円だ、といった数字を挙げておこう。

 ライターの報酬は、固定の原稿料の場合もあるし、上記のように印税(全体で本の売価の10%が多い)の一部が配分される形になる場合もある。

 こうした報酬の水準を、「安くて割に合わない」「まあまあだ」「案外高い」のいずれに思うかは、その人の日頃の時間の価値によるだろう。また、もちろん、その仕事が好きか否かにも大きく影響されるだろう。

 ただ、このケースでは、パソコンが1台あって時間を捻出できれば、会社員がライターの副業を行う上で無理や不都合はないことがご理解いただけよう。

 これまで副業を制限できる理由とされてきた前出の4項目について、先のケースで考えてみよう。

「(1)労働者の安全」については副業を行う本人が自分の時間と健康の管理を行えばいい。「(2)業務秘密の保持」についてはライティングに勤務先の業務上の秘密は必要ないはずなので問題ない。「(3)業務上の競合回避」については、ライターと金融業が競合しないことは明らかだし、「(4)就労先の名誉や信用」については、所属企業の肩書や名前ではなくライター自身の名前で仕事をするのだから、これも問題はない。

 このように考えると、副業ができるサラリーマンは数多いはずだ。読者には、積極的に副業にチャレンジしてほしい。

 副業の解禁で、出版業界におけるライター不足が解消されるかどうかは大いに興味深い。