「職場やクライアントに迷惑をかける」
ベビーシッターも対応できず早退するときも

 広告代理店に勤める近藤美紀子さん(47歳、仮名)は、テレビCMを作るのが高校時代からの夢だった。東京の有名大学を卒業後、大手広告代理店に就職。配属は制作部門ではなく営業部門だったが、大手クライアントを担当し、新しい商品やサービスのプロモーションを進める仕事は華やかでやりがいにあふれていた。

 クライアント都合で振り回されたり、クライアントと制作部門との間に挟まったりの苦労もあったが、持ち前の明るさで乗り越えてきた。深夜早朝の業務も日常茶飯事だったが、忙しく働くことが、自己満足感を高めてもくれた。人間関係にも恵まれ、入社3年目に大きなプロジェクトの担当になると、忙しさに拍車がかかった。

 その2年後には社外の夫と結婚。仕事を辞めることは一切、考えなかった。ただ、長時間残業や休日出勤が当たり前の働き方で、子育てもできるかは心配だった。幸い、夫は家事に積極的で、近藤さんが遅くなる日は夕食を作ってくれた。そうして30歳を目前にして、子どもを授かった。職場の人も祝福してくれ、愛らしい我が子の顔を見ると母親としての幸せを実感した。

 産休・育休は半年強で切り上げて職場に復帰した。もっと長く育休を取ることもできたが、クライアントの上層部にプレゼンするときのピリピリとした緊張感が懐かしくなり、いつまでも穏やかな日々を過ごしていると、職場に戻れないような気がしたからだった。

 だが、職場に復帰してからの生活は、近藤さんの想定をはるかに超えて大変だった。子どもはしょっちゅう熱を出し、保育園から呼び出される。そのたびに、職場やクライアントに迷惑をかけると思い、いたたまれない気持ちになった。

 夫は子育てにも協力的で、急な呼び出しにも可能な限り応じてくれたが、毎回、夫に頼れるとは限らない。近藤さんも夫も地方出身で、双方の親に頼ることはできず、ベビーシッターに毎月多額のお金を使った。が、ベビーシッターも突発的な呼び出しにはあまり対応できず、結局、近藤さんが早退するしかないときも多かった。