教える側は“学び続ける姿勢”も忘れてはいけない
「自分一人ですべてを教えなくてはならない」と思い込んでいた先輩社員にとっては、「周囲の社員を巻き込む」という方法は、目からウロコではないだろうか。その実践には、組織内の社員との協業意識が大切で、巻き込むためのテクニックも必要だ。
関根 どの年代や階層の人がOJTトレーナーといった教える側になるかによって“巻き込み方”も変わってきます。たとえば、40代の人が教える側の場合、新人と年齢の近い20代の後輩に「新人の話を聞いてあげてほしい」と働きかけることができます。新人側からしても、自分と年齢の近い先輩からのコンタクトは安心です。逆に、教える側が20代の若手だと先輩社員を巻き込むことに対して遠慮がちになりますが、そこは管理職の支援がポイントになります。教える側の上司である管理職が30代40代の社員に「新人の教育を手助けしてあげてください」と告げれば、周囲を巻き込んでの教育が可能になります。また、人事担当者から管理職に「OJTトレーナーが一人で抱え込むことが無いよう、職場全体での関わりを作ってほしい」などと依頼すれば、よりスムーズに周囲を巻き込むことができるでしょう。
ただ、教えられる側の新人からすれば、複数の人にいろいろなことを命じられると、どの指示を優先すべきか、どの仕事の手順が正しいのかが分からなくなる場合があります。教える側のメイン担当者がいるうえで、「巻き込む人はあくまでもサブ」という位置づけを明確にすることです。
できるだけたくさんの経験をさせ、さまざまな人たちとの関わりを持たせること――それが新入社員の成長を促し、ひいては、教える側の「相手本位」の姿勢にもつながるのだろう。さらにもうひとつ、教える側にとって大切なことは、「教える人自身が学び続けること」だと関根さんは語る。
関根 私たちは、「教え上手は学び上手」という表現を使っているのですが、教えるのがうまい人を見ていると、自分でどんどん学び続けています。
学び方にはいろいろありますが、たとえば、自分の師匠と仰ぐ人から話を聞くとか、本を読む、勉強会に参加するなどです。OJTトレーナーが他のOJTトレーナーと一緒に社内で勉強会をする例もあります。その様子を新人が見学すると、「先輩社員ですら学んでいるのだから自分もたくさん学ぼう」「いまは全部が分からなくても、だんだん学んでいけばいいんだな」という気づきが生まれます。学ぶことで教える側の知見や知識が増えるのはもちろんですが、自らが学んでいる姿勢を見せることも、新人にとって大きな価値があるのです。