「自分の経験」「周囲の人々」「先人の知恵」

 管理職や先輩社員が「教え上手」になることで、新人は大きく成長する。そこからさらに新人が伸びていくためには、教えられる側の新人自身が「学び上手」になることが望まれる。

関根 新人研修でよくお話しするのですが、勉強は、学校を卒業したら終わりではありません。学生さんは「就職したら勉強から解放される!」と思うかもしれませんが、企業に入社してからも学びは続き、しかも、学校での教育と違って、正解が定かではありません。自分で正解を探っていくしかないのです。それを手助けするために、私たちが「学びのリソース」と呼んでいるものが3つあります――「自分の経験」「周囲の人々」「先人の知恵」です。

「自分の経験」は、教える側の軸としてお話しした「どんな経験を積ませるか」を教わる側の目線から見た姿勢……つまり、「どんな経験を積めるか」です。いろいろな仕事が与えられるなかで、上手に学べる人とそうでない人がいます。たとえば、コピー取りをはじめとした雑用でも、自分自身で意味ある経験にできるかどうかが成長を左右します。

「周囲の人々」は、教える側の軸となる「人々」と同じ。つまり、先輩社員や上司、管理職との関わり合いのことです。ポイントは、「質問」「傾聴」「観察」です。たとえば、新人が良い質問をしたときに年配の社員からワーッと情報が出てくることがありますよね。私たちは、それを「おじさんスイッチが入った」と呼びますが、「おじさんスイッチ」を探すためには、とにかく「傾聴」すること。「教えてくれたことをメモする」「頷きながら聞く」は当たり前のことですが、これを行うと、年配の人は気持ちよく教えてくれます。いまの若い世代は「人前でメモをとるのは失礼」と思う傾向もあるみたいですが、たとえば、昭和世代の上司は、スマホではなく、ノートに書いている姿を見るほうが「教えてあげる」気持ちになったりします。また、「観察」することも大切です。教えるのが下手な人ほど「自分の背中を見て学べ」と言いますが、学ぶ側からすれば、何を見ればよいのか分からないですよね。そういうときは観察をして、分からなければ素直に質問するといいでしょう。観察をしていると、反面教師に出会うこともありますが、「悪いところだけを見るのではなく、その人のいいところを探そう」と、私たちは新人研修で伝えています。

「先人の知恵」は、書籍です。求める答えがすべて書かれていなくても、本を読んで参考になることは多いでしょう。

 一生懸命に学んでいる姿勢を上司や先輩社員に見せることも大切です。「教え上手」の人が学ぶ姿勢を新人に見せるように、学ぶ側も学んでいる姿勢を先輩に見せると「頑張っているなぁ」「もっと教えてあげよう」と思われるようになります。また、少し早くにオフィスに出社して、簡単な掃除をするなど、OCBを積極的に行うと、周りの社員が良い印象を持ち、教育担当であるOJTトレーナーに対する会社の評価も上がります。そうすると、OJTトレーナーも気分が良くなり、「ますます教えたくなる」という好循環も生まれます。