今年は例年とは異なり、あっという間に梅雨が明けた。6月に記録的な猛暑日が続くなどして、体調を崩しがちな人も多いのではないだろうか。新年度が始まりようやく慣れてきたところで、どっと疲れが出やすい時期でもある。2021年4月に発売された『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』(クルベウ著 藤田麗子訳)は、「無理せず、自分のペースで自由に生きたい」という人におすすめの1冊だ。著者のクルベウ氏は事業に失敗し、自分を励ますためにSNSに投稿していた癒しの言葉が多くの共感を集め、2015年に作家デビュー。本作はクルベウ氏の日本語初翻訳作品だ。読者からは「1ページ目から涙が出た」「すべての文章が刺さった」「大切な人にプレゼントしたい」との感想が多数寄せられている。禅僧で精神科医の川野泰周さんも、本書について「このタイトルこそが、大丈夫じゃない自分に気づくきっかけになる」と語る。今回は、川野泰周さんに「心の休め方」​について話を聞いた。

【精神科医が教える】「もう前に進めない…」と感じたときにできる心の休め方とは?Photo: Adobe Stock

突然、無気力になってしまう人の共通点

ーー『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』の中には、「無気力な1日」という話があります。

 がんばりすぎて周りの期待にこたえようとしてしまう人ほど、疲れやすくなったり、急に無気力になったりするように思います。川野先生はどんな方が燃え尽きやすいと思いますか?

川野泰周(以下、川野):私の患者さんやクライエントの方々を拝見して感じるのは、「セルフ・コンパッション」が低いことによって燃え尽きてしまう人が多いということです。

 セルフ・コンパッションとは心理学的に言えば「自分自身に対する優しさや慈しみ」のこと。

 近年の研究から、こうした心の在り方は私たちが自分自身のメンタルの状態を健やかに保つために欠かせない要素であることが分かってきました。

 セルフ・コンパッションが低い人は、同時に「セルフ・アウェアネス(自己認識)」も低い、つまり自らの心身の状態を正確に認識することが難しい傾向があるように感じます。

 ごく簡単に言えば、「自分に対してあまり意識を向けていない」ということになります。

 自分の感覚を丁寧に感じていないために、外界からの雑多な情報にばかり振り回されてしまい、自分が疲れていることに気づけない傾向があるのです。

 自分が今疲れていると気づけなければ、自らを手当てすることはできません。

 私たちは疲れていると自覚できたときにはじめて、ちょっとスーパー銭湯でゆっくりしようとか、マッサージや整体に行こうと思えたりするわけです。

ーーなるほど。疲れを自覚していない人も多そうですね。それまで笑顔でがんばってきた人が、ふとしたきっかけで心が折れて、会社に出社できなくなる、という話もよく聞きます。

川野:近年、そういった状態に陥ってしまう方がますます増えているように感じます。

 もちろん、心が折れてしまう人が全員セルフ・コンパッションの低い人、セルフ・アウェアネスが低い人とはかぎらないと思います。

 たまたまブラック企業に入社してしまって、身を粉にして働いているうちに、気づいたときにはボロボロになっていたという場合もあるでしょう。

 でも、自分に対する気づきをしっかり持てていれば、たとえどんなブラックな企業に入社してしまったとしても、組織に対する違和感や精神的苦痛をしっかりと認識することで、やがてそのブラックな環境から脱却することができます。

 一方、セルフ・アウェアネスが不足している人は、疲れという感覚自体も自覚しにくいため、どこまでも「がんばれてしまう」のです。そうして、ある日突然、布団やベッドから起き上がれなくなってしまう人が少なくありません。

ーーそうなんですね。周りの人もがんばっているのだから、自分ももっとできるはず、と無理してがんばりすぎないのが大切ですね。

川野:はい、「どれだけの仕事量をこなせるかは、単なる個人の特性のちがいにすぎない」と考えてみることも必要なのではないでしょうか。

 先に倒れた人が負けとか、夜通し仕事ができる人が偉いなどということはまったくありません。

 大切なのは、その人の持てる能力を元気に発揮できる環境を手にすることであるはずです。

 特殊な技能は持ち合わせていないけれど、とにかく体力と気力を発揮して業務量を稼ぐことができる人もいます。一方で、根気が続かず1日に数時間しか集中して働けないのだけれど、キラリと光る才能を発揮して活躍している人もいます。

「私はこれに関してだけは得意なんだ」というもの自覚できるかどうかで、そこを生きがいにしてのびのびと生きていけるかどうかが決まるといっても過言ではないと思います。

 もし得意なことがあるはずなのに、その能力をうまく発揮できず、ただただ疲弊している場合には、ミスマッチの解消のために、転職などを検討する時期がきているのかもしれません。