休職が自分を見直すきっかけに

【精神科医が教える】「もう前に進めない…」と感じたときにできる心の休め方とは?Photo: Adobe Stock

――たしかに、得意なことがある人でも、能力をうまくいかせずに、自信を失ってしまう人もいますよね。

川野:はい。本来持っている力が発揮でないと、心理的な負担が大きくなります。

 場合によっては心の健康を保つことができず、休職しなくてはならなくなるケースも少なくありません。

 でも私は、「休職をする」という選択肢をネガティブなものとは捉えていません。

 休職をきかっけに、職場の人事担当者や産業医と面談を重ねて相互の理解が深まり、職種のミスマッチを解消することができた、あるいは休んでいる期間にゆっくり自分自身と向き合うことができて、自分流の生き方、働き方を見直す好機になったという人もおられました。

 休んでいること自体を「職場に迷惑をかけている」「会社の役に立てていない」と考えるのではなく、将来自分の持てる才能をいかんなく発揮するための「準備期間」と考えることで、心のあり方が180度良いほうへと変わった患者さんもたくさんいらっしゃいます。

ーーそうなんですね! 本来の自分を取り戻すには休むことも大切ですね。

川野:そうですね。そしてもう一つ大切なことは、仕事場での評価を「自分という存在に対する評価」に置き換えないことですね。

 仕事でうまくいかないと、人間としてもダメだと思ってしまう。そんな傾向が、セルフ・コンパッションに課題を抱えた人には垣間見えます。

 そもそもセルフ・コンパッションとは、他者からの評価をいったん除外して、自らが「自分には価値がある」「自分を大切にしてあげよう」と思える心のことです。こうした心を十分に育むことができれば、それは安定した自己肯定感の裏づけとなるのです。

 たまたま今のこの状況、この与えられた役割の中では自分はちょっと力を発揮できていないな、ミスマッチだなと思うこともあるでしょう。

 しかしそのような中にあっても、「でも自分はこれをしているときだけは幸せだな」「楽しい時間を持つことで自分を大事にしてあげよう」と意識できれば、仕事を離れている時間に人生を充実させることができますよね。

『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』には、自らの人生を充実させる方法がたくさん載っているので、ぜひ参考にしていただきたいと思います。

 とくに、この本の中にある「慣れた場所で過ごす」ことはすごく大切だなぁと、私自身の経験も振り返りながら感じました。