ノーベル賞もとった佐藤栄作元首相は「国葬」ではない

 吉田氏の国葬から8年後、安倍氏の大叔父である佐藤栄作元首相も亡くなっているが、この時は政府、自民党、国民有志の三者による「国民葬」をとった。

 佐藤元首相は、安倍氏に破られるまで首相在任期間7年8カ月という長期政権を誇り、大勲位をもらって、さらには日本初のノーベル平和賞受賞者だ。

 そんな憲政史上でも突出した実績のある元首相が、なぜ吉田氏に続けて国葬にならなかったのかというのは、何を言わんやであろう。

 このように国葬というのは「名誉感」はすごいのだが、国家喪主という重い足枷をつけられるので、セレモニーの内容的には罰ゲームのようにひどいありさまになってしまうという問題があるのだ。

 そういう現実を知ってか知らずか、岸田政権は安倍元首相の国葬をゴリ押ししている。これは一部の政治評論家も指摘しているが、「党内の保守勢力の取り込み」ということもあるのだろう。

 言っていることが立憲民主とそれほど変わらないリベラル勢力・宏池会を率いる岸田首相からすれば、これまで安倍氏が抑えてくれていた党内の保守グループに対して、自力で良好な関係を構築しなければいけない。

 となると、まずはその手の人々が望む「安倍元首相を国葬に」を実現して、「私はこう見えて案外タカ派なところもあるんですよ」とアピールして、信頼を勝ち得ていくしかない。言い方は悪いが、安倍氏の国葬を自身の政治力アップに利用しているようにも見える。