“両立支援”の施策のために、組織全体を見渡すこと
特定の社員に対しての “両立支援”――従業員のそんな不公平感をできるだけなくすためには、さまざまな立場や職場の従業員に話を聞き、意見を出してもらったうえで人事制度をつくることが理想だ。それが、組織のチームワークや従業員それぞれの心身の健康につながっていくと内田先生は語る。
内田 社内の組織全体を見渡したうえで、「どのような困り事に対する両立支援を優先させるべきか」を判断するために、産業医の私と総務・人事担当者、社内関係者でブレストを行うことがあります。まず、「社内で、どのような人がどう困っているのか」という“困り事のカテゴリー分け”をします。すると、ある企業では、育児・介護中の従業員のほかに、夜勤がある人や取引先に長く滞在する人の困り事、配慮が必要な部下を抱える管理職の困り事などが出てきました。次に、調査結果なども参考に話し合ったうえで、優先的に支援に取り組むカテゴリーを決めていきます。そのうえで、カテゴリー該当者のいる組織にヒアリングし、アクションプランを立てていくのです。この方法の良いところは、従業員それぞれが持つ困り事の全体像を見渡せることにより、さまざまな両立支援を順序立てて考えていけることです。
内田先生は、ひとつの企業における、従業員からの年間相談件数や相談者の所属部門・年齢・相談内容といったデータを蓄積&分析し、それを企業の総務・人事部にフィードバックして、メンタルヘルス不調の発生や離職防止に努めているという。
内田 たとえば、「○○部門は、入社2〜3年目で休職する人が多く、□□という相談事が目立つ」ということが分かったら、休職が離職にもつながっているか、その組織の業務特性、管理職の姿勢などを総務・人事部が確認して、何が起こりがちなのかを把握していきます。そして、その結果をもとに、新しい研修や人事制度の導入を検討していくのです。もちろん、ストレスチェック*5 の結果も、従業員自身の健康管理や企業の両立支援に生かしていくことが大切です。従業員のストレスが少なそうな組織があれば、その理由を探り、ほかの組織の参考にしていくこともあります。従業員の健康状態の分析によって、職場のあり方を企業経営者や総務・人事担当者にアドバイスしていくのは、私たち産業医にしかできないこと。これからも、私はそこに力を入れていきます。
*5 厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」サイト内「ストレスチェック制度について」参照
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