「静かで控えめ」は賢者の戦略──。そう説くのは、台湾出身、超内向型でありながら超外向型社会アメリカで成功を収めたジル・チャンだ。同氏による世界的ベストセラー『「静かな人」の戦略書──騒がしすぎるこの世界で内向型が静かな力を発揮する法』(ジル・チャン著、神崎朗子訳)は、聞く力、気配り、謙虚、冷静、観察眼など、内向的な人が持つ特有の能力の秘密を解き明かしている。騒がしい世の中で静かな人がその潜在能力を最大限に発揮する方法とは? 著者にZoomインタビューを敢行、同書について存分に語ってもらった。(取材・構成:田中裕子、写真:Wang Kai-Yun)
組織心理学者が明かした「成功の条件」
――チャンさんの著作『「静かな人」の戦略書』の中に、「『謙虚さ』こそが成功をもたらす」という言葉がありました。腰の低さやつつましさなどの「謙虚さ」をもちあわせている内向型は、じつは仕事で成功をおさめやすいということでしょうか?
ジル・チャン(以下、チャン):ウォートンスクールの組織心理学者で、企業のコンサルタントとしても活躍しているアダム・グラント氏は、成功するための重要な資質として「謙虚さ」を挙げています。
彼は、謙虚な人には「自分の弱点や欠点を知っている」「自分よりもチームの利益を優先できる」「勉強と練習を怠らない」という3つの要素があり、これが人を成功に導くと述べています。
これについては、わたしも身をもって経験してきました。
わたしは長年、俳優やミュージシャンといったアーティストたちとも仕事をしてきました。彼らの中には大スターになった人もいますし、そこまで人気に火が点かない人もいたんですね。
そんな彼らを10~20年のスパンで見ていてわかったことは、長期的に成功するスターはみな謙虚だということです。
スタッフやチームメンバーに配慮を欠かさず、ファンに対しても思いやりの気持ちを持ちつづける。
おだやかな態度で相手の話をじっくりと聞き、周りからの信頼を得る。
自分のパフォーマンスに対してシビアで、たゆまず改善を積み重ねる。
そんな謙虚な人たちこそが成功をおさめ、スターとなっていったのです。
これは決してエンターテインメント分野や個人のキャリアにかぎった話ではなく、あらゆる仕事でも、そしてチーム戦でもまったく同じです。チームの成功には「きらびやかなスタープレイヤー」より「謙虚なチームプレイヤー」のほうが寄与するものです。
謙虚な人の弱点は「売り込み下手」
──評価の面で損をしがち
――協調性があり、粘り強く物事を成し遂げる内向型はチームに欠かせない存在です。ただ、どうしても「縁の下の力持ち」になりがちだと思うのですが、自らの貢献をどのようにアピールすればよいでしょうか? 謙虚がゆえに、損をしてしまうことも多そうです。
チャン:おっしゃるとおり、内向型の人は「自分がこの仕事を成功に導いた」と喧伝するのが苦手です。
しかしきちんと評価されるためには、自分の成果を周りに知ってもらう必要があります。気づいてくれるのをただ待つばかりでなく、自分を売り込むためのマーケティングを考えなくてはならないわけです。
……内向型の人は、この「売り込み」という言葉自体、あまり好きではないと思いますが(笑)。
謙虚な人にオススメの3つの「アピール」法
内向型の人が謙虚に自分をアピールするうえで大切な要素は、3つあります。
まず、「データを使う」。わたしはこんな能力があると言葉にせずとも、それを示す客観的な情報やデータがあれば相手は納得してくれます。たとえば「今月だけで6つのプロジェクトをいい形で着地させた」と示す客観的なデータがあれば、それがあなたの実力を代弁してくれるはずです。
次が、「間接的に表現する」。内向型の人は自慢するのが苦手で、同時に、相手も自慢する人は好きではないだろうと考える傾向にあります。でも、直接的な自慢をしなくても、自分の功績を伝えることはできます。
たとえば、スーパースターのワールドツアーに関わった事実を伝えたいとき。「テイラー・スイフトのツアーを成功させた!」と直接的に言うのではなく、「テイラー・スイフトのツアーに関わったとき、彼女はとても親切だった」とエピソードを語るわけです。
そうすれば相手も嫌な気持ちはしませんし、自分としても抵抗なく実績を伝えられます。
最後が、「準備をしておく」。内向型にとって心理的にハードルが高い作業ですが、「いつでも自分の功績を伝えられるよう準備しておく」ことは大切です。
自分は具体的にこういう実績を挙げた、自分にはこういう能力があり、昇格に値するだけのことをしてきた……といった内容を整理して頭に入れておくんです。とくに内向型は、いざというときにぱっとアピールするのは苦手なので、一度、時間をとって整理して頭に入れておくことをおすすめします。
苦労しているのは外向型も同じ
――なるほど。外向的でなくとも、自分の特性を理解し、それを生かす方向で努力し、コンフォートゾーン(安全地帯)から一歩踏み出せば、どんな人でも「自分の成功」を目指せるのかもしれませんね。
チャン:そのとおりです。そもそも、わたしたちは外向的な人に憧れる一方ですが、彼らにも苦労はあるんです。
おしゃべりで社交的な友人と話していたとき、わたしが「あなたみたいになりたい」と伝えたら「なんで?」と本気で返されたことがあります。
「僕は上司から黙って相手の話を聞けと言われるし、もっと考えることに時間を割けと言われている。僕はあなたみたいになりたいよ」と。
そう言われたとき、職場においては人それぞれに抱えるむずかしさがあり、学ぶべきことがあるんだと気づきました。結局、自分と違うタイプを羨ましく思うより、自分自身にじっくり向き合うことのほうがずっと大事だということですね。
そうしたことを含め、『「静かな人」の戦略書』では「静かな人」が持つ数々の長所と、それを十分に生かすさまざまな戦略を紹介しています。ぜひ参考にしてください。
【大好評連載】
第1回「無口でも評価される人」と「軽んじられる人」の1つの違い
第2回「ストレスに強い人」「弱い人」考え方の1つの違い
第3回【雑談がラクになる】「ちょっとした会話」に使える話題ベスト3
第4回 うるさい「高圧的な人」を一発で黙らせるシンプルな一言
第5回「謙虚でも自然に評価される人」がしている1つのこと
ミネソタ大学大学院修士課程修了、ハーバード大学、清華大学でリーダーシップ・プログラム修了。ハーバード・シード・フォー・ソーシャル・イノベーション、フェロー。アメリカの非営利団体でフィランソロピー・アドバイザーを務める。過去2年間で行ったスピーチは200回以上に及ぶ。15年以上にわたり、アメリカ州政府やメジャーリーグなど、さまざまな業界で活躍してきた。2018年、ガールズ・イン・テック台湾40アンダー40受賞。本書『「静かな人」の戦略書』は台湾でベストセラー1位となり、20週にわたりトップ10にランクイン、米ベレットコーラー社が28年の歴史で初めて翻訳刊行する作品となり、第23回Foreword INDIES「ブック・オブ・ザ・イヤー」特別賞に選出されるなど話題となっている。現在は母国の台湾・台北市に拠点を置きながら、内向型のキャリア支援やリーダーシップ開発のため国際的に活躍している。