「若者の暴走」に
中国政府も戦々恐々?

 思い起こすのは、7月に安倍元首相が銃撃されて亡くなったときのこと。中国のSNS上に「祝逝去」「祝賀」などのコメントがあふれただけでなく、中国メディアの在日中国人女性記者が中国のSNSで激しいバッシングにさらされ、自殺を図ったという事件もあった。この女性記者が安倍元首相についてレポートする際、涙声になり、安倍氏をたたえるようなコメントを発したからだといわれている。

 こうした問題は日中間だけにとどまらず、時には国際問題にまで発展している。7月下旬、「ディオール」(DIOR)の2022年のコレクションで発表されたスカートが、中国の伝統的な衣装であるマミアンスカートに酷似していると中国のSNSで問題視された。しかも、それだけでなく、フランスに住む中国人留学生がパリの「ディオール」のショップに集結し抗議活動を行った。

 近年、中国では、米中対立に関して世論を煽る国内報道の影響などもあり、経済発展した自国に過剰な自信を持つ若者が多く、自国文化を見直す傾向も強まっている。さらに、それが高じて「自国文化への冒涜(ぼうとく)は決して許さない」といった風潮も広がっている。

 北京に住む中国のメディアの関係者はいう。

「こうした傾向は、自信をつけた若者を中心に当分とどまる気配がなく、エスカレートする可能性があります。中国のSNS上には日本の夏祭りからインスピレーションを得て、中国で独自の夏祭りを行うことに何の問題があるのか。いいかげん、こんなことで騒ぎ立てるのはよそうよ、といった冷静な声もあることはあるのですが、大きな声で言う人は誰もいません。今の風潮に逆らうような発言をすれば、それこそSNS上で自分が袋だたきにあうからです」

 日本側から見れば、一連の問題は、どこにどんな地雷が転がっているか分からない「中国リスク」の一つとみることができるが、それは中国政府にとっても同様だ。

 同関係者は「SNSでの過激な発言が、反日だけでとどまっているかどうか分からない。一歩間違えば政府へと向かう可能性も否定できないと思います。今秋の共産党大会に向けて、政府は、若者の暴走を不安視しているという声もあります」と話している。