ドル高がアップルに与える負のインパクト
ざっくり計算でもよく分かる

 アップルがわが国でのiPhoneなどの値上げに踏み切ったのは、ドル高の影響で計画していた収益を確保することが難しくなったからだ。ざっくり計算するだけでも、ドル高がアップルに与える負のインパクトがよくわかる。

 まず、ドル/円の為替レートが1ドル=100円だとする。米国でiPhoneが1台1000ドルの場合、わが国での販売価格は10万円だ。それが1ドル=130円になったとする(30%のドル高・円安)。アップルがわが国での販売価格を引き上げなければ、ドルベースで見たiPhone1台あたりの売上高は30%目減りする。

 こうして考えると、アップルがドル高による収益押し下げ効果を吸収するためには、ドル高・円安が進んだ分だけ販売価格を引き上げるなどしなければならないのは明白だ(なお、これらはすべて世界経済の成長率が一定と仮定した場合)。

 これまでアップルが値段を変えなかった背景には、ドルの為替レートが落ち着いていたことがある。21年9月20日頃までの約5年間、ドル/円の為替レートは概ね110円を挟んで推移した。その状況下、アップルは国際分業体制を強化し、新商品の開発を加速した。

 コロナ禍発生直後の一時的な世界経済の減速を挟みつつ、iPhoneの需要は増えた。その結果、22年1~3月期の売上高と純利益は過去最高を更新した。3月末まで、アップルは事業運営の効率性を高めることによってドル高のインパクトを吸収できたと言える。

 しかし、アップルがドル高を吸収し続けることはもう限界だ。特に、FRBがインフレ退治を急がざるを得なくなったことは大きい。21年11月、FRBは「物価上昇は一時的」との見方が「間違いだった」と認めた。そうして22年3月、0.25ポイントの利上げが開始された。

 それ以降、想定を上回る物価上昇を食い止めるためにFRBは大幅な追加利上げを余儀なくされた。一方、わが国の需要は弱い。日本銀行は徐々に金融政策の正常化を念頭に置き始めているが、実際に異次元緩和が修正されるには時間がかかる。それらの結果、日米の金利差は拡大しドル高・円安が進んだ。