まず話を聞いたのは、山口久美さん(仮名・30歳)。高校生活の半分以上はスラックスを着用して過ごしたという山口さんは、スラックスの機能性が自分に合っていたことが選択の理由だと話す。

「スカートにはなくてスラックスにしかないメリットって多いんです。私が一番うれしいと思ったのは、肌の露出が抑えられること。日焼けをしにくいし、ムダ毛の処理を怠っても気にならないし、『スラックスって便利だな』と思っていました」(山口さん)

「ムダ毛の処理をしなくていいことなんかがメリット?」と、思う人もいるかもしれない。だが、「女子高校生という多感な時期には、ムダ毛はとても大きな問題でした」(山口さん)という。

「私はとても毛深く、カミソリで剃っても黒いポツポツが目立ってしまうのがコンプレックスでした。だから、自然に足を隠せるのは良かったですね」(山口さん)

 さらに、電車通学時における“痴漢の遭遇率”もかなり違いがあったという。

「スカートのときは痴漢被害に遭いやすいのですが、スラックスのときは劇的に遭遇率が低かったですね。誰もが好きな格好をして良いはずなので、痴漢はする側が悪いとは思います。でも、『服装を変えるだけで身を守りやすくなるんだ』という事実に、当時は驚きました」(山口さん)

見た目と実用性で
悩む女子生徒たち

 続いて「高校時代、防寒対策をしたい日だけスラックスをはいて登校していました」と話してくれたのは、鈴木桃香さん(仮名・22歳)だ。

「冬場と、毎月の生理期間にはいていました。生理痛が重たくて体を冷やしたくなかったので、スラックスは重宝しましたね。中学時代はスカートの下にジャージをはいて寒さ対策をしていたのですが、『みっともない』と先生に怒られていたので、とがめられずに防寒できるのはうれしかったです」(鈴木さん)

 防寒着としては非常に優秀なスラックスだが、年頃の女子ならではの葛藤もあったとか。

「スラックスってやっぱりボーイッシュな印象になってしまうので、私はそれがあまり好きじゃなくて…。当時付き合っていた男の子がいて、部活の終わる時間が合うと一緒に下校していたんです。彼の前では、自分が“かわいい”と思う格好がしたくて、真冬でも生理のときでもスカートをはいていました。当時、『スーツだとパンツスタイルでもレディーライクなのに、どうして制服だと男の子っぽくなっちゃうんだろう』と思っていましたね」(鈴木さん)

 実際、冒頭で触れた菅公学生服の調査データによれば、「女子制服のパンツスタイル(スラックス)について、どのように思うか」というアンケートにおいて、「かわいい」と回答した女性より、「かわいくない」と回答した女性のほうが多かった。

 機能面ではポジティブに捉えられているスラックス制服だが、今後、今まで以上に女性らしい雰囲気にもマッチするデザインも増えていけば、より多くの女子中高生が気兼ねなく選択できるようになるのかもしれない。

 また、「男の子っぽく見える」という点で、性的指向やジェンダーに関して陰で話している子を見かけたこともあると、鈴木さんは言う。

「通年でスラックスをはいている女の子を指して『○○ちゃんっていつもスラックスをはいてるけど、レズビアン? それとも性同一性障害なのかな?』と話している子たちがいたんです。でも、その子はレズビアンではないし、心と体の性も一致していました。制服の選択肢が2通りあって、その中から着たいと思うほうを選んでいるだけなのに、選択の結果によって他人が勝手にセンシティブなことを決めつける。それってLGBTQの当事者にも、そうでない人にも失礼だと思うし、そういう声がスラックスをはきたい子のハードルになっている気がします」(鈴木さん)