退職によって全ての縁が切れることは大きな損失
話を戻し、労働市場全体で見ると、毎年5%前後の人が退職をしています。退職によって縁が切れてしまえば、企業側の視点ではこの5%の人材は完全に失われてしまいますが、関係を継続することができれば、再入社や業務委託ということが可能かもしれませんし、会社や商品・サービスのファンで居続けてもらうことで会社の資産となるでしょう。
企業側と個人側ともに賛成派の考えとしては、キャリアの多様化や雇用の流動化は止められるものではないので、雇用の流動化を前提とした関係性にアップデートをすべき、というものです。
一方、企業側の反対派の意見としては、「活躍できないから辞めていった」という声が聞かれ、個人側からも「自分が活躍できる環境が、辞めたい会社にはない(辞めた会社にはなかった)」という意見が出ます。
企業の事業内容や事業を取り巻く環境は飛躍的かつ非連続的に変化していて、求められる人材や能力も同様に変化しています。同時に、個人の持つ能力や知識のライフサイクルは短くなっていて、リスキリングの重要性が叫ばれています。「活躍できないから辞めていった」という発言には、「当時の自社で、能力を最大限発揮して大きな成果を出せなかった人」という考えがあると思われますが、「当時」とは、企業もその個人も大きく変化している可能性が高いのです。
この数年で多くの企業が新しく取り組んでいるデジタル関連事業などの新規事業はわかりやすい例で、「会社は大好きだけど、やりたいことができなかったために退職した。しかし、(辞めた会社は)数年たってそれができる状況になったので、外で積んだ経験も生かして、辞めた会社に戻り、新規事業に取り組みたい」という想いを耳にすることが多くあります。
また、雇用主と従業員という関係ではなく、ビジネスパートナーやクライアントとしてなど、関係性が変わることによって社員として在籍していた時よりも良い関係を構築したり、より高いパフォーマンスを発揮できることもあります。
筆者の知人が、ある総合商社のアルムナイの集まりでテレビ番組のインタビューを受けた時に、「この会社“で”仕事をするよりも、この会社“と”仕事をする方が自分に合っていると思った」と発言していました。実際、知人は、退職後もその会社とビジネスで良い関係を持ち続け、相互に「有効活用」をしているようです。
退職によって全ての縁が切れてしまうことは、企業にとっても、個人にとっても、そして、社会にとっても大きな損失であることは誰でも認識できるでしょう。しかし、なぜ、「退職者=裏切り者」という考えを「退職者=社外パートナー」という考えに変えて、新たな関係を構築することが簡単ではないのでしょうか。
企業と退職者の関係構築に対する反対派の意見として、企業と退職者の両方から聞くのが、ネガティブな「辞め方」です。企業側は、「酷い辞め方をしたので関係構築をしたくない(または、できると思っていない)」、そして、個人側からは、「辞める時に酷い仕打ちを受けたので関係構築をしたくない(または、できると思っていない)」という声を耳にします。「辞め方改革」を実現して、このようなネガティブな「辞め方」を減らす――そのための鍵を握るのが、日本人の「辞める」「別れ」「終わり」などに対する考え方です。