「コミュニケーション改革」でもある「辞め方改革」

 退職が「想定外」である日本においては、退職を前提とした教育はあまり行われていません。あるとしても、退職と同時に関係を断絶することで次の退職を無くそうとする「恐怖政治」を推奨するような教育が行われているくらいです。

 最近では少なくなったものの、退職者の上司や同僚に対して、「他の社員が退職したくなくなるくらい、退職者に対して厳しく当たれ」や「退職者を無視しろ」などという教育をしている会社もありました。辞めずに残っている社員のエンゲージメントを考えても、このやり方はどう考えても逆効果でしかないことは明白ですが、退職を前提とした教育を受けていない上司や同僚は、効果的なやり方がわからないのです。新入社員を効果的に受け入れる「オンボーディング」に関する教育は行われていますが、退職者を効果的に送り出す「オフボーディング」に関する教育がされていないので、効果的な「オフボーディング」のやり方がわからないのも当たり前といえるでしょう。

 筆者の会社は、アルムナイ専用のクラウドシステム『Official-Alumni.com(オフィシャル・アルムナイ・ドットコム)*2 』の提供を通じて、企業が退職したアルムナイとの関係構築をすることを支援しています。サービスの一部には、辞める側(個人)の退職体験を改善するために、退職者の上司や同僚に対して提供する「オフボーディング研修」などもありますが、「辞め方改革」にいちばん効果があるのは、退職後も企業とアルムナイが良好な関係を築いていたり、ビジネス連携や再入社するといった事例が発生していることを企業や個人に知っていただくことです。

*2 Official-Alumni.comは、ハッカズークが提供するアルムナイ専用クラウドシステム。企業が効率よく運用できる管理機能に加えて、登録するアルムナイのメリットとなるアルムナイ同士のチャットや名簿検索、さまざまな募集ができる機能などが簡単に利用できるツールになっている。

 先日お話しした企業のビジネスサイドのマネージャーの方がこのようなことを仰っていました。

”私は以前から「辞め方改革」を意識して社員と接していました。自分のチームに配属されるメンバーには、社外でも活躍できる人材になってほしいと伝えていましたし、メンバーからのキャリアの相談も多くありました。その度に、退職後にどのような関係が築けるかを考えようとしましたが、個人的な関係の域を出ませんでした。退職するメンバーからも「○○さんとは関係を維持したいが、他の人や会社は真逆のことを考えているように感じる」と言われることもあり、それに対して良い返しがありませんでした。それが、Official-Alumni.comでアルムナイの取り組みを始めてからは「辞め方改革」がやりやすくなりました。社内のプロジェクトにアルムナイが携わっている事例などを挙げて、「退職後もこのプロジェクト手伝ってよ」や「お互い成長してまた一緒に仕事しよう」と言って送り出せるのがとても嬉しいのです”

「辞め方改革」は、企業側の「辞められ方」や個人側の「辞め方」だけを改善して、退職時の体験だけを改革しようとすることではありません。「採用改革」でもあり、「働き方改革」でもあり、「コミュニケーション改革」でもあります。企業が「辞め方改革」を実現し、アルムナイとの関係を構築することで雇用慣行をアップデートして、再び、日本の経済成長の最大要因となるような組織を作っていくことを私は望みます。