「16年に発売されたアルバム『WINGS』はヘルマン・ヘッセの『デミアン』にインスピレーションを受けたと言っています。この本を読んだら『血、汗、涙』などの曲の世界観が読み解けるんじゃないかとファンの間で話題になりました。また4枚目のフルアルバム『MAP OF THE SOUL:7』は『ユング 心の地図』というユング派の分析家の本がモチーフになっています」

自分を肯定してくれる

 BTSのメンバーが言及したり紹介したりする本が売れることで「BTSセラー」という言葉も誕生した、と桑畑さんは言う。今では「アイドルセラー」とも言われ、BTSだけでなく、NCTやSEVENTEEN、EXOなど人気アイドルが紹介した本が話題となり、日本でも数多く翻訳されている。

 彼らはどんな本を読んでいるのだろう。佐々木さんに、韓国本初心者で、なおかつAERA世代が楽しめる「アイドルセラー」6冊を選んでもらった。

【怠けてるのではなく、充電中です。】心が疲れたときに寄り添ってくれるようなイラストエッセイ。かわいいイラストも満載【怠けてるのではなく、充電中です。】心が疲れたときに寄り添ってくれるようなイラストエッセイ。かわいいイラストも満載。(ダンシングスネイル著/生田美保訳/CCCメディアハウス)

 まずは人気のイラストエッセイを。「絵もかわいいし、大人が読んでもフィットする」と佐々木さんが選んだのが、『怠けてるのではなく、充電中です。』(ダンシングスネイル著/生田美保訳/CCCメディアハウス)。ダメな自分を肯定してくれるような一冊で、少女時代のテヨンがインスタのストーリーズで紹介した。たとえば、休みは家でゴロゴロしたいけど、もっと時間を有効に使わないと……と罪悪感を覚える人も多いと思うが、この本ではそんな家が大好きな人たちを“ウチ族”と称し、休みは好きなように休んでいいのだと言ってくれる。編集を担当した大渕薫子さんもこう話す。

「著者のダンシングスネイルさん自身もうつを患った経験があって、とても言葉が優しい。そんなに悩まなくても大丈夫だよと元気づけてくれる本です」

BTSの絆象徴の紫帯

 自己啓発書はBTSセラーから。19年2月、福岡でのツアーを終えて韓国の金浦空港に現れたBTSのVが本で顔を隠すようなしぐさをした。その本『世界の古典と賢者の知恵に学ぶ 言葉の力』(シン・ドヒョン、ユン・ナル著/米津篤八訳/かんき出版)がファンの間で話題になり、韓国でベストセラーになった。孔子や老子、マルクスやサルトルなど、東洋・西洋の賢人たちの言葉や古典から「話し方」を学び、どう生きていくかを考えさせられる一冊だ。

【世界の古典と賢者の知恵に学ぶ言葉の力】東洋・西洋の賢人たちの言葉や古典を学び、生き方を考える。【世界の古典と賢者の知恵に学ぶ言葉の力】東洋・西洋の賢人たちの言葉や古典を学び、生き方を考える。(シン・ドヒョン、ユン・ナル著/米津篤八訳/かんき出版)

 日本語版を出版する際に、かんき出版の渡部絵理さんは、ファンへのリスペクトも込めて、BTSとBTSのファン、「ARNY」との絆の象徴である紫を帯の色に選んだ。初版は11週間で売り切れたという。

「最初はファンの方が手に取ってくれたのですが、自己啓発書としてきちんと評価され、BTSファン以外の方にも多く読まれています」(渡部さん)