岡藤正広Photo:JIJI

岡藤正広が社内で言い続ける
「一時的な成功」のリスク

 伊藤忠は2021年3月期の決算で時価総額、株価、連結純利益で総合商社のナンバーワンになった。

 だが、1年後にはロシアのウクライナ侵攻の影響もあり、資源価格が高騰。22年3月期の連結純利益トップは三菱商事、2位は三井物産となり、伊藤忠は3位となった。

 しかし、岡藤正広はがっかりしていない。

 今も大学生の就職人気調査の多くで、伊藤忠は業界首位の三菱商事よりも上であり、しかも、全業種の中でトップの人気だ。

 岡藤は「長い目で見れば資源価格に依存するよりも生活消費関連に力を注いだ方が業績の変動は少なくなる」とみている。

 だが、安閑とはしていない。社内に対しては「気を引き締めろ」と言い続けている。

 実業家で経営学者のクレイトン・クリステンセンの著書『イノベーションのジレンマ』の一節を引いて、社内に語りかける。

「一時的に成功したことが皮肉にもその後の衰退を招く契機になる」

 この一節を社員に向かって繰り返し、「うちは昔から慢心と過信で失敗した。そうならないようにしたい」としている。