障害のある人の雇用において、いま、企業にいちばん必要なことは何か?

前稿(企業側の“専門スタッフ”の存在が、障害のある人の就労を定着させていく)では、障害者の就労における雇用側の“専門スタッフ”の重要性などを、 “医療型就労支援モデル”の第一人者である清澤康伸さん(一般社団法人 精神・発達障害者就労支援専門職育成協会代表 医療法人社団欣助会 吉祥寺病院)に語っていただいた。コロナ禍で障害者雇用のあり方も変わりつつあるなか、企業経営者や人事担当者が心がけることは何か?(ダイヤモンド社 人材開発編集部、撮影/菅沢健治)

*本稿は「企業側の“専門スタッフ”の存在が、障害のある人の就労を定着させていく」の続きです。

*本稿では「障がい」を「障害」という表記に統一しています。

企業側が障害者の面接時に気をつけるべきこと

 民間企業の障害者の採用において、重要となるのが人事担当者と求職者(障害当事者)の面接だ。人事担当者は、初めての顔合わせで何を尋ねるべきか――まず、雇用する側が面接時に気をつけるべきことを清澤さんに聞いた。

清澤 企業側の方にいちばん知っていただきたいのは、「面接で向き合っている相手が、実際にどれくらいの仕事ができるのかを、面接の場で理解するのは難しい」ということです。障害のある本人が、「できます。大丈夫です」と言ったとしても、本人の考える仕事のイメージが過去の経験を基準にしている場合が多く、自己申告による「見極め」は困難だと思ってください。では、面接で何を知ることができるか?――たとえば、精神障害のある方なら、自分の症状を把握しているか、自分のストレスの状態や調子を崩すときの前兆をわかっているか、そのときにどのような対策・対処がとれるのか、そして、それらを自分で語れるか、です。面接では、「言いたくないことは言わなくてもいいです」と相手に告げる企業も多いですが、聞きたいことを聞いているわけですから、質問の表現を変えるなどして、面接でできる限りの回答を得られるようにしたいですね。

 担当いただく仕事ができるかどうかの見極めは、実習や職場体験を通じて行うことも多いでしょう。採用試験の過程で、“実技”を入れている企業もあります。一次試験の面接をパスしたら、二次試験として実技を行ってもらい、採用の可否を決めるわけです。採用選考に入る前に、職場見学を兼ねて実際の業務を体験してもらうケースもあります。障害のある方の意思を尊重して、本人が望めば採用選考へと進んでいく方法です。

 採用面接には、就労支援機関の担当者が同席することもあるが……。

清澤 面接においては、同席している就労支援機関の姿勢の良し悪しで障害のある方の採用を判断する企業もあります。就労支援機関の担当者が話す内容や態度、支援体制がきちんとしているかどうかが判断基準になるようです。いろいろな企業とお付き合いするなかで、「こんな支援機関とは組みたくない」「こういう支援機関なら信用できる」といった声を私はよく聞きます。ひとつの就労支援機関に複数の事業所がある場合、同じ法人でも担当者は千差万別なので、就労支援機関そのものではなく、個々の担当者の「人となり」で判断する企業もありますね。「この支援機関だから採用する」ではなく、「この支援機関の○○さんだから採用する」ということも珍しくないようです。

 実際、私も、最終面接を受ける相手が私自身だったこともあります。就労支援した方の採用後に、企業の担当者に、「なぜ、最終面接が私だったのか?」を聞いてみたところ、「就労後のフォロー体制が安心できるか、何かあったときに任せられる支援機関なのかを見るため」とのことでした。企業側による就労支援機関の見極めも重要になっています。

清澤康伸

清澤康伸 (Yasunobu KIYOSAWA)

一般社団法人 精神・発達障害者就労支援専門職育成協会 代表理事(ES協会)
医療法人社団欣助会吉祥寺病院

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)時代より職場開拓、支援プログラム、就労後の定着支援、定着後のキャリア支援、企業支援などをワンストップで行う医療型就労支援モデルの構築を行う。新しい就労支援の形である清澤メソッドを考案。NCNPを経て現職。これまで10年間で350人以上の精神、発達障害者の一般就労を実現する。就労プログラム履修者の就労率92.7%、1年後の職場定着率95.0%は国内トップレベル。就労プログラム開始から一般就労までの平均6ヵ月。自身の就労支援の経験から支援者の人材育成が急務と考えてES協会を立ち上げ、支援者の育成にも力を注ぐ。そのほか、企業、公的機関におけるセミナーや講演、学会発表なども多数行っている。国内における精神・発達障害者の医療型就労支援のパイオニアであり、第一人者。講演、セミナーの依頼はES協会まで。