企業が気になる、今後の“法定雇用率”の推移

 障害特性を理解できるか、職場の安全面の配慮ができるか――民間企業による調査結果をはじめ、人事担当者の声を拾うと、三障害のなかでも、特に精神障害者の雇用に多くの課題を感じている状況がうかがい知れる。「精神障害」というワードだけで、身体障害や知的障害よりも雇用のハードルを高く感じる人もいるようだ。

清澤 まずは、正しい知識を身につけることです。人間は、知らないものに対しては恐れの感情を持ちます。しかし、きちんと知ったうえで正しい知識を持てば、先入観による怖さはなくなります。また、メディアの報道にも気をつけたいです。重大事件が起きると、「精神鑑定」というワードが必ず出てきますよね。そのために、精神障害者と精神鑑定が結びつき、精神疾患は犯罪につながるという考えが生まれてしまう。総務省の「犯罪白書」などの公的な資料を見ていただければわかると思いますが、精神障害のある方を分母に、精神障害があり、犯罪を犯してしまった方の数を分子にして、その確率の数字を見ると、精神障害のない人の確率よりも低く、再発率も低いです。でも、マスコミはそうしたことを報じないので、視聴者の脳裏には印象的なことばかりが刻まれていきます。

 精神障害についての一般的な知識は、確かな出版元の書物などで得るとよいでしょう。行政機関が専門家を招き、正しい知識を得るための講義や研修を行う場合もあります。お話ししたように精神疾患の症状は個別性が強いですが、まずは正しい知識を身につけてください。先入観や誤った知識をもとに障害者雇用を考えることは絶対に避けなければいけません。

 中小企業は大企業に比べて、障害者の実雇用率が低く、障害者を全く雇用していない企業もある。そうした状況を打破するために、厚生労働省は、2020年4月から、障害者雇用に積極的な取り組みを進めている事業主を認定する制度を設けた。制度名は「もにす認定制度*2 」――「もにす」は「共に進む(ともにすすむ)」という言葉の一部を取ったもので、企業と障害者が共に未来に向かって進んでいくことをイメージしたものだ。

 そのように、「共に進むこと」を目指す企業の経営者や人事担当者が、これからの障害者雇用において、いま、いちばん気にしていることは何か。

*2 もにす認定制度は、障害者の雇用の促進及び雇用の安定に関する取組の実施状況などが優良な中小事業主を厚生労働大臣が認定する制度です。認定制度により、障害者雇用の取組に対するインセンティブを付与することに加え、既に認定を受けた事業主の取組状況を、地域における障害者雇用のロールモデルとして公表し、他社においても参考とできるようにすることなどを通じ、中小事業主全体で障害者雇用の取組が進展することが期待されます。(厚生労働省ホームーページより)

清澤 民間企業が考える“障害者雇用の成否”は数字がひとつの指標となるので、やはり気になるのは、今後の法定雇用率の推移ではないでしょうか。障害者雇用促進法に基づく障害者雇用率制度は、5年に1回の見直しになります。来年度2023年がこの見直しの時期にあたり、2023年4月1日から数字が上がると推測されます。前回の見直しでは、民間企業は2.0%から2.3%になるはずだったのですが、一気に0.3%の上昇はハードルが高いので、経過措置として、昨年(2021年)の4月1日から2.3%となりました。次回も経過措置がとられるかもしれませんが、その数字がさらに上がるわけです。

 原則として、法定雇用率は週30時間以上の勤務をする障害者を1人、週20時間以上30時間未満の勤務をする障害者を0.5人とカウントしますが*3 、今後は精神障害者と重度の身体障害者・重度の知的障害者は、週20時間未満でも0.5人とカウントされるようになるようです*4 。これは、「障害のある方の働く機会が増える」という観点からはよいことですが、私には若干の懸念があります。週20時間以上の雇用では、企業は雇用保険に入る必要があり、負担が増えますが、週20時間未満で2人を雇用すれば、雇用保険の負担がなくて2人分のカウントができるので、週10時間から20時間未満勤務の雇用が企業側の都合で不適切に増えることにならないか、と。

*3 重度の身体障害者・知的障害者はダブルカウント。精神障害者に関しては新規雇用3年間のみ週20時間以上で1.0カウント。精神障害者の特例措置は、現行では令和5年3月31日までの経過措置。
*4 厚生労働省 第117回労働政策審議会障害者雇用分科会(2022年4月27日)より。下限は10時間とされている。