「今日も仕事だ、うれしいな」と思えるチームづくり

 望みどおりの配属先でなくても、その都度、板谷さんは自分にとって必要だと思うもの、面白いと感じたものにしっかり向き合い、貪欲に新しい何かを学んでいった。通信教育で経営学という新たな「わくわく」に出合った後も、そのチャレンジ精神はとどまることなく、大学院にも通った。

板谷  大学院で「組織行動論」を学びながら、私がずっと目指していたのは、「サービスの第一線にいる人たちが、いきいきと働ける組織をつくること」だと気づいたのです。マネジメントの視点で見ると、会社や上司から言われたことだけをやるのではなく、目の前のお客様に対して「心からお役に立ちたい」という思いで行動できる人を育てること――それが大切だと思いました。担当する業務の知識やスキルの向上はもちろん重要です。でも、もっと大切なのは仕事や関わる相手に対する「マインド」です。マインドが高まればよりよく働きたくなり、結果的に企業にとってもプラスにもなることに大学院で気づきました。

 マネジメントや組織開発に興味が湧きながらも、「地上女子サービス職の自分が、JALで管理職になることはない」と板谷さんは思っていた。そこに、天命のように辞令が下った。管理職として、ヨーロッパのウィーンに赴任することになったのだ。JAL初の女性海外支店長の誕生だった。

板谷 最初はびっくりしましたし、自分に務まるのかという不安もありました。でも、「私がイメージしていた『今日も仕事だ、うれしいな』と思えるチームをつくること」と、尊敬していた役員から与えられたミッションである「地域に愛される支店長になること」の2つなら、私にもできるかもしれないと思ったのです。まずは、みんなが楽しく元気よく働ける職場にしようと、明るく、「おはよう!」とオフィスに入っていくことから始めました。そして、地域に愛されるために、部下と一緒に現地の行事にも積極的に参加しました。そうしているうちに、支店の売上目標がどんどんクリアできるようになったのです。

 数字の達成は、板谷さんの働きかけでスタッフのマインドが変わり、成果につながる仕事を実現できたからだろう。また、ウィーンでの支店長時代には、スタッフとの関わり合いの中で板谷さん自身にも多くの気づきがあったという。

板谷 管理職を初めて経験して、結局、私らしいリーダーシップとは「部下を応援すること」だと思いました。部下に経験の機会を提供し、良かったところは褒め、失敗した場合は、どこが良くなかったのかを一緒に考えたうえで、次のチャレンジの機会を設ける。そうした“応援”の姿勢が、人づくりになるのだ、と。私がウィーンを去るときに、あるスタッフが寄せ書きに「チャンスをいっぱいくださってありがとうございました」と書いてくれました。「私のやっていたことは間違っていなかった」とわかり、とてもうれしかったですね。支店長時代に大切にした「今日も仕事だ、うれしいな」という姿勢は現在でも私の軸になっていますし、「今日も仕事だ、うれしいな」と思える人や職場を育てたいと考え続けています。37年間のJAL時代は私の原点であり、研修講師などの現在の仕事は、その延長線上にあります。