後で知ったことですが、私の兄が、「苦労して大学まで進ませ、やっと先生の紹介で京都の会社に入れてもらったというのに、半年も辛抱し切れんとは情けないやつだ」と怒って、戸籍抄本を送ってくれなかったのです。
結果的に、私だけが、オンボロ会社に取り残されることになってしまったのです。
私は一人、思い悩みました。
会社を辞めて転職したからと言って、必ずしも新しい職場で成功するとは限りません。「会社を辞めて人生がうまくいった」という人もいるかもしれませんが、「会社を辞めたために、かえって悲惨な人生を送ることになった」という人もいるはずです。また、「会社に残って一生懸命にがんばったことが功を奏し、人生がうまくいった」という人もいるかもしれませんが、「会社に残ってがんばったけど、人生は思い通りにはならなかった」という人もいるはずです。
会社を辞めるのが正しいのか、会社に残ることが正しいのか――私はたいへん悩んだあげく、一つの決断をしました。
それが、「人生の転機」を呼び込むことになったのです。
たった一人、オンボロ会社に取り残されるまで追い詰められて、目がやっと覚めたのです。「会社を辞めるには、何か大義名分のような確かな理由がなければダメだ。漠然とした不満から辞めたのでは、きっと人生はうまくいかなくなるだろう」ということに、私は思い至ったのです。
そしてそのとき、会社を辞める確固たる理由も見あたらなかった私は、まずは「働くこと」に打ち込んでみようと決意したのです。
愚痴を口にし、不満を抱くことをやめて、ともかく目の前にある自分の仕事に集中し、心底没頭してみようと、腹をくくり腰を据えて、はじめて「働くこと」と真正面から本気で格闘してみることにしたのです。
それからというもの、私はまさに「ど」がつくほど真剣に働き続けました。