その会社では、最先端のファインセラミックスの研究を担当していましたが、研究室に鍋釜を持ち込んで、寝泊りしながら、それこそ四六時中、研究に打ち込んだものです。三度の食事もろくに摂らず、昼夜を分かたず実験に打ち込む。

 その「ど真剣」な仕事ぶりは、端から見れば、壮絶なものだったようです。

 もちろん、最先端の研究ですから、ただ単に馬車馬のように働けばいいわけではありません。ファインセラミックスに関する最新の論文が掲載されているアメリカの専門誌を取り寄せ、辞書片手に読み進めていったり、図書館で借りた専門書をひもといたりするなど、仕事が終わった夜や休みの日も勉強を重ねていきました。

 そうするうちに、不思議なことが起こり始めました。

 大学で有機化学を専攻し、就職のため、無機化学をにわか勉強しただけの、弱冠二十歳代前半の若僧の研究なのに、次第に素晴らしい実験結果が出るようになってきたのです。

 同時に、当初抱いていた、「会社を辞めたい」「自分の人生はどうなっていくのだろう」といった、悩みや迷いがウソのように消えていきました。

 それどころか、「仕事がおもしろくて仕方がない」とまで感じられるようになってきたのです。そうすれば、苦労を苦労と思わず、ますます「ど真剣に」働くようになって、周囲からさらに高い評価をいただけるようになっていきました。

 それまで苦難や挫折続きであった私の人生に、思いもかけず、好循環が生まれるようになったのです。

 そして、私の人生において、最初の大きな「成功」が訪れたのです。

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