「オンライン脳」では心が通じない

 この脳と脳の同期、脳同士のシンクロは、たとえばコミュニケーションが成立しているかどうかはっきりしない乳幼児と母親では、観察できないでしょう。母親と幼児がコミュニケーションするとき、さまざまな場面や言葉かけの仕方によって脳の活動がどうなっているかは興味深いところですが、現在のコロナ禍という異常な環境のなかで、これはまずいのではないかと思われることにまず着目し、実験に取りかかったわけです。

 たとえば夫婦が会話するとき、夫は夫で自分の言いたいことをがんがん言い、妻は妻で自分の主張だけを言い募って、夫婦間で本当にいい関係性を築くことができていなければ、言葉の意味は伝わっていたとしても、脳の同期は起こらないでしょう。当然のことですね。

 シンクロするのは、ただ単に情報をやりとりして意味が相手に伝わっているというだけでなくて、シンパシーを感じたり、互いに心が通じあい、感情のやりとりができている状態です。

 憎しみ合っているような冷たい関係ではない、ふつうの友だち同士や同僚同士が、対面してコミュニケーションを取っているかぎりは、とくに仲よしというわけではなくても、お互いの脳がシンクロしやすいのです。ところが、同じ友だち同士や同僚同士が、オンラインコミュニケーションになった途端に、お互いの脳がシンクロしにくくなる。相手の気持ちや思いが分かりにくくなって、脳の状態は、何もしていないのと同じになってしまうのです。