脳は「双方向授業」で同期するが、「一方向授業」では同期しない

 さらに私たちは、実験を、より複雑な環境に持ち込んで継続しました。学校の教室で授業のやり方を変えたら、生徒や教師の脳の同期はどう変わるでしょうか?

 生徒・教師間や生徒同士のやりとりが多いインタラクティブな(双方向・対話型の)新しいタイプの授業と、生徒に教科書を開かせ教師が一方的に講義する古いタイプの授業というそれぞれの場合で、生徒・教師間や生徒同士の脳の同期を測定しました。

 結果は予想どおりでした。双方向で協調活動が多いとき、やはり脳の活動が同期していることが分かったのです。

同じ場所で共同作業を行うと、脳の同期率が高くなる同じ場所で共同作業を行うと、脳の同期率が高くなる。逆に、それぞれが別々に考えているときは脳の同期率は低い。 拡大画像表示

 昔ながらの学校の授業は、生徒がみんな教師1人の顔を見て、教師だけが生徒全員の顔を見る「教師1人対クラス全生徒」形式ですね。机と椅子の並べ方は教室のデフォルトのままで、「スクール形式」と呼んだりします。

 この配置でおこなう授業は、教師からの一方的な、上から目線のものになりやすくなります。「業を授ける」のだから、当たり前かもしれません。

 ほとんどの時間で話をするのは教師で、生徒側から発言するのは、手を挙げて「答えられます」とサインを出し指名された生徒だけだったりします。この形の授業に協調・協力といった活動はなく、生徒同士の脳は同期しないし、生徒・教師間で同期するのは一部の生徒だけという場合が多い、と考えられます。

 対して、机と椅子を班ごとで島になるように配置したり、椅子だけぐるり円を描くように配置したりして、生徒同士の顔が互いに見えるようにする「生徒対生徒」形式もあるでしょう。これは話し合いを活発にする仕掛けです。

 生徒同士がディスカッションしながら考えていき、教師はその補助に回るような双方向型・対話型の授業では、みんなが協調・協力しながら、ある結論にたどり着こうとします。だから生徒同士の脳がシンクロしやすい、と考えられます。私たちの実験では、机や椅子の配置を変えずに、英語の授業を一方向型と双方向型でやったのですが、脳活動の違いは歴然としていました。