脳が「同期」しないと「共感」は生まれない

 話す相手とよいコミュニケーションがとれているときは、お互いの脳活動の揺らぎが同期するという現象が起こり、つまり脳の活動がシンクロしています。……考えてみれば、ごく当たり前の話のように思えますが、これまで実験で確かめた研究者はいませんでした。さまざまな実験の結果、私たちは、人と人のコミュニケーションにおいては、「複数の人の脳の活動が同期すること」と「複数の人の間で共感が生まれ、協調や協力ができること」はイコールだろう、と結論づけるに至りました。

 そうこうするうちに、新型コロナウイルスによる感染症が拡大しました。必ずマスクする。密集・密接・密閉の「三密」を避ける。不要不急の外出をしないで、都道府県境をまたがないでなどと叫ばれ、企業の在宅勤務、学校の休校や在宅学習、居酒屋の時短営業や酒類提供自粛も始まって、オンラインコミュニケーションが当たり前になっていきました。

 ところが、実際にオンラインコミュニケーションや遠隔コミュニケーションをやってみると、さまざまな不都合が生じてきます。

 そもそもパソコンがない、ウェブカメラがない、まともなスピーカーをつけていないというところから始まった人もいたでしょう。ZoomやLINE(ライン)をインストールして、リモートで打ち合わせや会議をやってみれば、画面は小さくて粗いし、音もよくない。通信状況によっては、映像が止まったり、カクカク動いたりする。1対1のやりとりで相手の顔が画面に大きく映ればよいが、教師対生徒のオンライン授業では、教師側のモニタは参加者の数だけ画面が分割され、小さな顔がずらり並んでしまう。

 こんなものでは、表面的な情報のやりとりはできても、深い人付き合いなんてできるはずがないということを、誰もが経験し、痛感したはずです。

 そこで私たちは、オンラインコミュニケーションでは、脳がちゃんとコミュニケーションできていないのではないか、お互いの共感が起こっていないのではないか、これまでの実験で明らかになった共感とイコールの脳の同期が起こっていないのではないか――と考えました。こうして、前編で紹介した緊急実験が始まったわけです。