8月24日に逝去した稲盛和夫氏は、若くして創業した京セラを世界的企業に成長させ、第二電電(現KDDI)を設立、破綻の淵にあった日本航空を再生するなど、その多くの功績から「経営の神様」と称えられた。また、生前多くの著書を通じて卓越した経営哲学を説き、国内外の経営者、ビジネスパーソンに多大な影響を与え続けた。
著書『働き方』は、2009年に出版され、版を重ねながら今や30万部を超えるロングセラーだ。今回、本書の1章 「「心を高める」ために働く――なぜ働くのか」全編を5回に分けて掲載していく。「なぜ働くのか」「いかに働くのか」――。稲盛氏の仕事に対する情熱を知り、働くことの意義を改めて問い直すために、名著の一端に触れていただきたい。
神様が知恵を授けてくれる瞬間
入社して一年ほどたった、二十四歳のときでした。
私は当時、フォルステライトと呼ばれる、新しい材料の研究開発にあたっていました。フォルステライトとは、絶縁抵抗が高く、とくに高周波域での特性に優れているファインセラミックス材料のことです。そのころ主流であったステアタイトに比べて、当時爆発的に普及し始めた、テレビのブラウン管に使う絶縁材料としては、より適していると言われていました。
しかし、合成に成功した例がなく、私にとっても会社にとっても、このフォルステライトの研究開発は、まさにチャレンジングなテーマでした。
そのため、大した設備もない中、連日連夜、それこそ徹夜続きで開発実験を続けても、なかなか思うような結果が出ません。私はもがき苦しみながら、自分をギリギリのところまで追い込み、昼夜を問わず実験を続けていました。そして、どうにか合成を成功させることができたのです。