リスクを取った資金も含めて、資金が民間のビジネスに潤沢に供給されるようになると、経済成長にプラスに働くだろう。この理屈はなんとなく正しそうな気がする。
次に、だから公的年金の積立金のようなおカネを成長のための投資にもっと振り向けるべきだ、という話になるとどうだろうか。まだ正しいのかもしれないが、少し不安な感じがしないだろうか。
たとえば、新たに基金をつくったり、年金の積立金の一部を別枠にしたりして、「成長戦略支援基金」のような名前をつけて10兆円ほど運用するのはどうか。
まず、国内に「成長する」投資先はあるのだろうか。これはきっとあるのだろう。事後的には何かがあるはずだ。しかし、何が成長する産業であり、どこ(企業、プロジェクト)に、どのようなかたちで投資するのがいいのかを「今」決めるのは、きわめて難しい。
また、仮に成長するビジネスがあるなら、国ではなく、民間がこれを見つけて投資するのではないか。見つけることができた民間(人、機関)がリスクを負って投資するのだから、彼らが収益を得ることでなんの問題もない。
国あるいは国の配下に置く運用組織のほうが、幅広い民間の眼よりも早くかつ正確に有望なビジネスを見つけることができると想定するのは非現実的だろう。
結局大切なのは、成長できる環境をつくることであって、公的な資金を投資することではない。
では、国の機関が投資するのだから、経営のアドバイスをするなどビジネスの育成ができないか。
しかし、ここでもビジネスの育成を民間よりも公的機関のほうがうまくできるか、という問題がある。加えて、国は産業を監督する立場だから、特定の産業や投資先企業を優遇していいのかという問題が生じる。たとえば、ライバル会社が持っていない情報を教えていいのか。産業の監督と育成を両方手がけるのは筋がよくない。