8月24日に逝去した稲盛和夫氏は、若くして創業した京セラを世界的企業に成長させ、第二電電(現KDDI)を設立、破綻の淵にあった日本航空を再生するなど、その多くの功績から「経営の神様」と称えられた。また、生前多くの著書を通じて卓越した経営哲学を説き、国内外の経営者、ビジネスパーソンに多大な影響を与え続けた。
著書『働き方』は、2009年に出版され、版を重ねながら今や30万部を超えるロングセラーだ。本書の1章 「「心を高める」ために働く――なぜ働くのか」全編をこれまで掲載してきたが、今回がその最終回となる。「なぜ働くのか」「いかに働くのか」――。稲盛氏の仕事に対する情熱を知り、働くことの意義を改めて問い直すために、名著の一端に触れていただきたい。
「愚直に、真面目に、地道に、誠実に」働け
人が易きにつき、おごり高ぶるようになってしまいがちなのは、人間が煩悩に満ちた生き物であるからです。そのような人間が、心を高めていこうとするときに大切なのが、悪しき心を抑えることです。
人間の煩悩は、百八つもあると言われています。
中でも「欲望」「怒り」「愚痴」の三つは、卑しい心、つまり人間を苦しめる煩悩の最たるもので、心にからみついて離れず、取り払おうとしてもなかなか拭い去ることはできません。
お釈迦様は、この三つを「三毒」と呼ばれ、人間を誤った行動に導く諸悪の根源だとされています。
「人よりも多くの金銭を手にしたい」「人よりも高く評価されたい」――このような「欲望」は誰の心にも潜んでいて、それがかなわないとなると、人は「怒り」を覚え、「なぜ思った通りにならないのか」と「愚痴」や「不平不満」をこぼすようになる。人間とは、つねにこの三毒に振り回されて生きている、因果な生き物なのです。