テレビ局TBSを退社したのち、プルデンシャル生命保険で「前人未到」の圧倒的な業績を残した「伝説の営業マン」である金沢景敏さん。営業マンになった当初はたいへん苦労しましたが、あることをきっかけに「売ろう」とするのをやめた結果、自然にお客様から次々と「あなたからサービスを買いたい」と連絡が入るようになりました。本記事では、金沢さんの営業手法のすべてを明かした『超★営業思考』では紹介し切れなかった、コミュニケーションの裏技をご紹介します(構成:前田浩弥)。 

「話が長い人」のおしゃべりを、嫌われずに切り上げる方法写真はイメージです Photo: Adobe Stock

営業マンは「話す」より「聞く」ことが大事

 世の中に営業術を説くビジネス書はあまたあります。

 そのほとんどが、「トーク術」や「プレゼン術」など、「営業マン側が話す」ことに重きを置いた本です。

 デジタル大辞泉によれば、営業とは「得意先を回って顔つなぎをし、商品の紹介、売り込みをすること。また、新しい得意先を開拓すること」とあります。この定義に沿えば、営業マンにとっては、やはり「話す」ことが大切な要素であるといえるでしょう。

 しかし僕は、それ以上に重要なのが「聞く」ことだと考えています。お客さまに気持ちよく話していただくことこそが、営業を成功させる最大のポイントと言っても過言ではないと思うのです。

 なぜなら、営業マンは、「どのような商品・サービスを用意しているのか」という情報はいくらでも話すことができますが、「お客さまが何に困っているのか?」「お客さまが何を悩んでいるのか?」「お客さまがどのような商品・サービスをほしがっているのか?」という情報は、お客さまの話のなかから察知するほかないからです。

 しかも、お客さまの話をただ一生懸命聞くだけで、「この営業マンは、自分の話を真摯に聞いてくれる」と好印象を持ってもらうことができます。さらには、自分が話したかったことを気持ちよく話させてくれた相手に対して、「今度は、この人の話を聞いてあげなければ」「この人に何かお返ししてあげたい」と思ってもらうことができます。

 お客さまにそのような気持ちになっていただくことができれば、多少、トークが下手な営業マンであっても、確実に成績は上がっていくのです。むしろ、お客さまの気持ちを顧みず、営業トークを立板に水で話したところで、そんな話を身を入れて聞いてくださるお客さまなどいらっしゃらないのです。

「面」で話して「点」を探す

 では、どうすれば営業マンは、「話し手」から「聞き手」に回ることができるのか。

 僕が心がけていたのは、「“面”で話して“点”を見つける」ことです。

 相手との距離を近づけるコツは、とにかく共通点を見つけること。出身地、趣味、スポーツ、出身校、子ども、おいしい食事……なんでもいいので、お互いに深く話せる「共通の話題」を見つけることに尽きるのです。

 もちろん、共通点を探すために、お客さまから不躾に「聞き出そう」「探り出そう」とするのはダメ。そうではなく、はじめは当たり障りのない話題を提供しながら、お客さまと言葉のキャッチボールをします。自分が興味のある話題を、広く浅く「面」で展開していくイメージです。

 そして、さりげなくお客さまの反応を観察します。

 何かの話題に触れたときに、グッと身を乗り出したり、声のトーンが上がったり、パッと表情が明るくなるような瞬間があるはずです。それは、お客さまが興味をもっている話題である証拠。その「点」を見つけ出すことさえできれば、あとは、その「点」を掘り下げていけば、確実にお客さまとの会話は弾みます。そして、お客さまの話が乗ってくれば、自然と「聞き手」に回ることができるわけです。

「自分の都合」ではなく「相手の都合」を理由にする

 ただ、相手が話好きなお客さまであればあるほど、困った事態に遭遇しやすくなります。そう、会話が弾みすぎるあまり、予定の面会時間を大幅にオーバーしやすくなってしまうのです。

 もちろん、時間に余裕さえあれば、お客さまの話にとことん付き合うのがベストですが、次のアポイントがある場合には、どこかで区切りをつける必要があります。とはいえ、せっかくお客さまが気持ちよく話してくださっているのですから、こちらか切り上げるのはなかなか難しいものです。

 そんなとき僕は、「○○さん、お時間大丈夫ですか?」と切り出していました。「自分の都合」を気にするのではなく、「相手の都合」を気にする姿勢を見せることで、お客さまに不快感をもたせることなく、うまく話を切り上げようとするわけです。

 ここで、察しのよいお客さまは、「あ、話し過ぎたかな……。そろそろ切り上げなきゃ」と思ってくださるのですが、なかには、「私は、大丈夫です」と、さらにお話をしようとされる方もいらっしゃいます(ありがたいことなのですが……)。

 しかしこちらは、次のお客さまに会う時間が迫っている……。そのときはもう、最終手段。僕は、「申し訳ありません。次の予定のためにもう出なければいけない時間となってしまいました」と、正直に告げるようにしていました。

 ここで大切なのは、本当のことを伝えること。「実は、◯時◯分にお客さまとのアポイントがあるのです。もっとお話を伺いたいのですが、次のお客さまにご迷惑をおかけするわけにもいきません」などと嘘偽りなくお伝えして、ご理解をいただくのです。

 そのうえで、楽しいお話を聞かせてくださったことに対する感謝の気持ちを伝えるとともに、「お話の続きは次回、ぜひ聞かせてください」と明言します。これをしっかり伝えないと、お客さまがデリケートな方の場合は、「もしかしたら、自分の話がつまらなかったからもう帰りたくなったのかな」などと不快に思われるかもしれません。

 しかも、「次回、ぜひ聞かせてください」と伝えることで、「次回アポイント」をいただくこともできます。それは、営業マンにとっても、とてもありがたいことなのです。このように、上手な「話の切り上げ方」を身につけておけば、安心して、お客さまに思う存分話していただく気持ちの余裕をもつことができます。そして、お客さまの心を掴むことができるようになるのです。

「話が長い人」のおしゃべりを、嫌われずに切り上げる方法金沢景敏(かなざわ・あきとし)
元プルデンシャル生命保険ライフプランナー AthReebo(アスリーボ)株式会社 代表取締役
1979年大阪府出身。京都大学ではアメリカンフットボール部で活躍。大学卒業後、TBS入社。テレビ局の看板で「自分がエラくなった」と勘違いしている自分自身に疑問を感じて、2012年に退職。完全歩合制の世界で自分を試すべく、プルデンシャル生命保険に転職した。当初は、思うように成績を上げられず苦戦を強いられるなか、一冊の本との出会いから、「売ろうとするから、売れない」ことに気づき、営業スタイルを一変させる。そして、1年目にして個人保険部門で日本一。また3年目には、卓越した生命保険・金融プロフェッショナル組織MDRT(Million Dollar Round Table)の6倍基準である「Top of the Table(TOT)」に到達。最終的には、自ら営業をすることなく「あなたから買いたい」と言われる営業スタイルを確立し、TOT基準の4倍の成績をあげ、個人の営業マンとして伝説的な業績をあげた。2020年10月、プルデンシャル生命保険を退職。人生トータルでアスリートの生涯価値を最大化し、新たな価値と収益を創出するAthReebo(アスリーボ)株式会社を設立した。著書に『超★営業思考』(ダイヤモンド社)。