こういうときにはデザイナーにヒアリングをしてもらいます。たとえば自社のコーポレートサイトを作ったときには、普段好きなものは何かをデザイナーから聞かれました。会社のロゴを作ってくれたのは私の友人で、私の顔も話すときの表情も知っていますし、私がお酒を好きなことも知っています。そこで私の「テーブルをイメージしている」といった言葉やそうした情報をもとに、ちょっと遊び心のある隠し要素も入ったロゴを制作してもらいました。
別の会社のプロダクト開発を手伝ったときには、デザイナーが会社やプロダクトのイメージをヒアリングするとともに、創業者の方に「好きな音楽アルバムのジャケットをいくつか持って来てほしい」と伝えて、サンプルデザインを用意したこともあります。
いずれにしても、デザイナーへデザインを依頼するときに、言語だけを通じて伝えることは大変難しいことなのです。
味、サウンド、感情を
言葉で伝えることの難しさ
同じようなことは、ワインや日本酒の好みをソムリエや唎酒師(ききさけし)に伝えて注文するときにも言えます。私はワインが好きで、ブドウの品種などもそれなりに覚えてはいますが、私のような素人にとっては、ワインのテイストを言語化して情報伝達し、意思を伝えるのはかなり難しいことです。ところが、ソムリエの人たちにとっては、ワインの味を「この味はこう表現する」というのがおおよそ決まっており、それを使って味の判別を行っているわけです。
こんな話もあります。友人たちとポッドキャストの企画をするにあたり、あるメンバーにBGMの選定を依頼しました。彼女は自分のお気に入りのYouTuberが使っているBGMに似た楽曲を使いたいと思い、いろいろな音楽素材サイトでさまざまなキーワードで楽曲を探しました。ところが、1時間以上探しても思い描く楽曲を見つけることができません。
途方に暮れ、知り合いのアーティストにYouTubeのBGMを聞かせ、こういう音楽はなんと表現するのかを尋ねました。そしてアーティストの知人から「『トロピカルハウス』というジャンルで探してみたらどうか」とアドバイスを受け、ようやく候補となる楽曲を探し出すことができたそうです。