これは米国だけの現象ではない。日本を含む多くの自由民主主義国では、保守・リベラルどちらの政党が政権を担っても、都市中間層の票を狙って「新自由主義」的な政策が続けられてきた。

 英国でトニー・ブレア元首相が率いた労働党政権が、実質的に保守党の「サッチャリズム」を引き継ぐ「第3の道」を打ち出したことがその典型だ。

 この路線は政治から忘れ去られた労働者の怒りを買い、その怒りに寄り添う姿勢を見せたポピュリズムが台頭した。ポピュリズムとは、世の中を大衆とエリートに二分し、大衆の意見こそ政治に反映されるべきだという思想である。

 その結果、英国における「EU離脱を巡る国民投票」で労働者の怒りが爆発し、EU離脱につながったのは記憶に新しい(第134回)。政治から取り残されてしまっていた人たちに、ポピュリズムが政治参加の機会を与えたのは間違いない。

 私は、ポピュリズムを危険視する通説にくみしない。ポピュリズムを支持する労働者の政治的な声は決して「狂気」ではない。むしろ、エリートにはわからない、庶民の生活に根差した切実な訴えと考えるべきだ。それを政治が拾い上げることが分断を招くとは思わない。

 かつての自由民主主義国では、「エリート・都市中間層による、労働者の政治からの排除」という社会の分断状態があったのは確かだ。だが現在は、社会がその分断から脱却し、排除される人がいない「融合」に向かっていく過渡期にあるのではないだろうか。

米国などでは「分断」ではなく
「融合」が進んでいる

 米国でも融合は進んでいる。民主党・共和党の二大政党による分断が拡大しているようにみえるが、実は政策志向や支持層の違いが薄れてきている。

 例えば、共和党はもともと「白人高齢者の党」と呼ばれていた。だが、2012年の大統領選で民主党のバラク・オバマ氏に敗れた後、民主党支持層の切り崩しのために、「多様性」を志向することになった。

 また、共和党のトランプ氏が、2016年の大統領選に向けて「白人労働者」の支持を掘り起こした一方で、その他の党所属議員がヒスパニック系、アジア系などの人種的マイノリティーや女性の支持拡大に取り組み続けた。

 その結果、今では共和党と民主党の支持層が重複している。選挙公約は、両党ともに労働者、女性、マイノリティーを意識したものとなっているのだ。

 また米国では、将来の政党再編の予兆となり得る動きも出ている。

 例えば、「ポスト・トランプ」を狙う共和党の有力政治家と目されるジョシュ・ホーリー上院議員は、民主党左派のバーニー・サンダース上院議員と連携して最低賃金15ドル要求を強く掲げている。ライバル政党の議員と手を組み、公約実現を目指しているわけだ。

 これに加えて、共和党、民主党に続く「第3政党」を模索する動きが出ているとの報道もある(会田弘継「逆転の構図―エリートの民主、労働者の共和:米中間選挙展望」nippon.com)。