「スマホメモ」を、今すぐ「手書きメモ」に変えたほうがいい4つの理由

ノート術やメモ術に関する書籍は数多く存在しているが、それぞれ手法は異なる。そのため、メモを活用したいと思いながらも、具体的にどんな運用をしたらよいのか悩んでしまう人も少なくないだろう。
そんな方の悩みに答えてくれるのが、日本一ノートを売る会社「コクヨ株式会社」の社員、下地寛也さんの書いた『考える人のメモの技術』(ダイヤモンド社)だ。下地さんは今まで数多くの仕事ができる人のメモをリサーチした、いわばノートのプロフェッショナルである。
本書では、2種のノートを使い分けることで、正解のない問いに対して自分らしい答えを出す力を磨ける実践的なメモ術を紹介している。今回の記事では、手書きメモの効用について下地さんに聞いた。(取材・構成/久保 佳那、撮影/疋田千里)

「手書きのメモ」と「デジタルのメモ」。どちらがおススメ?

――前回は、インプットメモとアウトプットメモの使い分けについてお聞きしましたが、そもそもメモは手書きがいいのでしょうか?

下地寛也(以下、下地):手書きのメモにするか、スマホやパソコンなどのデジタルでメモをするか。これも、悩ましい問題ですよね。

 もし、皆さんが考える力を伸ばしたいと考えるのであれば、全部ではないですが「手書きのメモ」を主体的に取り入れることをお勧めします

 会議やミーティングの議事録や、ちょっと忘れないうちにメモしておこうという記録のメモは、デジタルでも問題ありませんし、私もそうしています。

――具体的に「デジタルのメモ」と「手書きメモ」の違いは何でしょうか?

下地:効率重視で情報を扱う場合、デジタルメモの方が優れていると思います。

 デジタルであれば、検索で必要な情報をすぐ探せます。メモした内容をすぐにコピペして、メールで誰かに送ったり、資料にそのまま転用できるというのも利点ですね。

 ただ、デジタルの欠点もいくつかあります。

 それは、逆接的ですが、検索しないと出てこない。つまり情報が埋もれてしまいがちということです。

 手書きのメモであれば、何か書くときに以前書いたことをパラパラと見返すことができます。

 デジタルの場合、一つ一つクリックして開くことになるので、よっぽどタイトルをわかりやすくつけて体系的に情報を保存しておかないと、見返すことをしなくなってしまいます。

――たしかに、スマホで保存した情報って、意識的に見直すことは少ないかもしれません。

下地:また、アウトプットを考えるときも、画面のサイズの制約があるので、関連する情報を一覧で見ながら考えることがしにくいわけです。

 いきなりパワーポイントを立ち上げて企画を考える人がいますが、それだと一本筋が通った構成をつくることが、非常に難しくなります。

 2ページ目で書いていることと7ページ目で書いていることが、微妙にニュアンスが違うなんて資料をよく見ることがありますよね。

 人が同時に記憶できることはマジックナンバー7±2と言われていて、せいぜい7~10個程度でしょう。

 ところが企画や問題解決といったアウトプットを考える場合、10~30個、ひょっとしたらもっと多い情報を扱ってそれを整理する必要があるわけです。これを一覧で見ずにやるとすれば、どうしたって構成上の矛盾がでてくるわけです。

――だから、紙を机の上に広げて、手書きで考えたほうがいいということですね。

下地:はい、手書きの良さは、この「一覧性」という側面が大きいですが、それ以外にもあります。

 ひとつは「自由度」です。

 デジタルメモは基本的には、決まったフォントで決まった大きさの文字を淡々と打ち込むことになります。

 しかし、手書きであれば、大切だと思った情報は大きめに書くとか、丸で囲んだり、アンダーラインを引いたりと、情報の優先順位を考えながらメリハリをつけられます。

 そうするとメモをパッと見たときに何が大切なのかが一目で判別できます。

――ちょっとした図を描いたり、疑問に思ったことを吹き出しで書くこともできますね。

下地:そうですね。そういった「自由度」高くメモできるということで、結果的に「記憶の定着」にもいいわけです。

 よく、メモした内容を思い出そうとするときに「大きめの字で書いて、ウネウネとアンダーラインを引いたページにメモしたよな」といった感じで、書いたページのビジュアルで思い出すこともあるでしょう。

 ノートの各ページに変化が出るので、結果的にデジタルと比べて思い出しやすくなるわけです。

 実際に2014年米国プリンストン大学とカリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究で、手書きでノートにメモをとる人と、パソコンのキーボード入力でメモをとる人を比較したところ、手書きの人の方が記憶が定着しやすく、良い成績を収めたという話もあります。

――手書きのメリットってたしかにいろいろあるんですね。結果、考える力が伸びることにつながるのですね。

下地:はい、「創造性」を発揮するという点でも手書きがいいと思います。

 なぜならば、スティーブ・ジョブズがコネクティング・ザ・ドット、つまり点と点をつないでアイデアを出すと言っているように、創造とは、一見すると無関係と思える情報と情報をつなぐという行為になるわけで、どうしたって手書きの方がやりやすいわけです。

「3つのキーワードを線でつなぐ」ことをパソコンでやろうとするだけで、かなりストレスでしょう。

――たしかに、何か考えるときは手書きにしたいと、改めて思いました。

下地:ただ、私も簡単な企画をつくるときはデジタルで行います。それは過去の経験からだいたいの構成が頭に入っているからですね。

 どのような流れでアウトプットをつくるのかがイメージできているタイプの仕事であれば、手書きにこだわる必要はないでしょう。

 一から構成を組み立てるという答えの見えていない企画を考えるときは、まず手書きのメモを使ってみましょう。

 また、最近はデジタルペンを使ってタブレット端末に手書き風にメモするということもできますので、目的に合わせて使い分けるのでいいと思います。

メモの習慣を身につけるコツ

――下地さんがメモをする頻度はどのくらいですか?

下地:「コクヨの社員=いつもノートに何か書いている」というイメージをよく抱かれます。

 でもそんなにいつもいつも書いているというわけではないですよ。もちろん打合せのときなどの記録のメモは、しっかり書きますけど(笑)。

 インプットメモに書くのは1日に数個程度です。しかも、これから先もずっとメモして活用していきたいと思える情報は、1ヵ月で1~2個くらいじゃないでしょうか。

 メモを活用したいと思うと、「ずっとメモし続けなきゃいけない」と固定概念をもつかもしれませんが、大変な思いをして中途半端な情報をたくさんメモする必要はないでしょう。

 ただ、メモする量は、年齢や経験の差もあると思います。若い人や新しいことを学ぼうとしている時は、インプットしたいと思う情報も多くなるのが普通だと思いますね。

――メモを習慣化できない人は多いと思います。習慣化するためのポイントはありますか?

下地:普段あまり字を書く機会がない人は、まずは「書くこと」に慣れるのが一番です。

 書く習慣のない人が大事な情報だけを残そうとすると、なかなか書きだすことができません。

 例えばミーティング中に記録を残すときも、「必要な情報」と「そうでない情報」を分けていく練習をするといいですね。

 発言を聞きながら、「これは後で必要になりそうだからメモしよう」とか「この発言は既に知っていることだから書かなくていいや」など、常に情報の取捨選択をすると慣れていきます。

 すると、ふと頭に浮かんだことの中で、書かなくていいこと、書いたほうがいいことの判別ができるようになってきます。

――インプットメモを習慣にするにはどうすればいいでしょうか。

下地:今、世の中には情報が溢れていて、どこまでメモしたらいいかわからないと思う人も多いでしょう。

 そういった人におすすめな方法は、毎日3つ、これは大事な情報だ、面白い情報だと思ったことを、寝る前10分くらい使ってメモしておくことです。

 よくいう3行日記と近い感覚です。情報の大きい、小さいはあまり気にせず、とにかく毎日、情報をすくっておくことが大事なんです。

 書くことは、情報に意味づけをする練習にもなります。今日の出来事では、強いて言えばここに意味があったと振り返り、なぜ面白いと思ったのかという理由も書いておく。

 ある意味、情報収集力がさびないように、包丁を磨いているようなものです。磨いていくと、これは絶対インプットメモに残しておこうという情報が目につくようになります。

定番のノートやペンを選ぶことで、同じ感覚で書き続けられる

――メモの練習が、習慣に結びつくのですね。

下地:はい。そして、普段からメモする習慣のない人には、書く敷居を下げるためのコツがあります。

 それは、いきなりインプット用のノートに書くのではなく、走り書きできる気軽な紙や付箋を持っておくという方法です。ちゃんとしたノートだと、きれいに書かないといけないと思って書くハードルが上がっちゃう人もいるでしょう。

 僕はA4のコピー用紙を8つに折ったものをいつもポケットに入れていて、大事なことをふと思いついたときに立ったままでもサッと書けるようにしています。

「スマホメモ」を、今すぐ「手書きメモ」に変えたほうがいい4つの理由下地さんが実際にメモした8つ折りのコピー用紙(左)と、インプット用のノート(右)。(画像提供:下地さん)

――ノートに書く前の、もっと粗いメモということですね。

下地:字がきれいな人なら、いきなりインプット用のノートに書いてもいいと思います。

 僕はきれいに書けないのと、思い付いたことはすぐ活字にしたいので、こういった気楽な紙を持っているほうが曖昧な情報を書けていいんです。

 大きめの付箋を持ち歩いてもいいと思います。何か思い付いたことを書いて、しばらくノートの裏表紙に貼っておき、情報をいったん寝かせてみる。

 しばらくたって見たときに「つまらなかったな」と思うこともあれば、「これはインプットメモに書いておいたほうがいいな」と思うこともあります。

――そして夜寝る前に、測量野帳に書き写すわけですね。

下地:そうですね。必ずしも測量野帳でなくていいのですが、インプットメモのノートを選ぶ時のポイントは、価格が安くて、廃盤になる可能性の低い定番商品であることだと思います。

 例えば私の場合は、1000円くらいする値段が高いノートだと、ちょっとしたことを思いついたときに、「きれいに書かないといけないから、まぁ書かなくてもいいか」って思っちゃって(笑)。

 メモするときに気合が必要なので、意外と日常使いがしにくいんですよ。

 測量野帳は薄いのですぐ使い切ってしまいそうに思いますが、40ページほどあって、思ったよりも長期間使えます。1日3~5つぐらいメモするくらいなら、1冊で4~6ヵ月はもちます。年間に使用するのは2~3冊です。

――(下地さんのノートを見せていただきながら)それぞれのノートで色を変えたり、シールを貼ったりしているんですね。

下地:同じシリーズのノートを使うので、どれがどのノートか分かるように目印をつけています。

 目印があると、書き終えたインプットメモの中から情報を探すときにも、「これに書いたな」と直感的に思い出せるんですよ。

 安いノートなので、シールを貼ってアレンジするのも抵抗がないですし、数ヵ月使って少し汚れるのも悪くないです。

 さらに、方眼が3mmと普通より細かいので、小さい字が書きやすく、結果的に情報量をたくさん書けるのもいい点です。

「スマホメモ」を、今すぐ「手書きメモ」に変えたほうがいい4つの理由下地さんの歴代のノートたち。測量野帳シリーズで統一し、シールなどを貼って違いを出している。(画像提供:下地さん)

――メモを書くうえではペンも重要ですよね。下地さんのこだわりがあれば教えてください。

下地:実は、あまりこだわりはないんですが、PILOTのフリクションとZEBRAのサラサを使っています。

 インプットメモは情報を圧縮して書き込みたいので、芯の細いペンを使いますね。

 結構、ペンを無くしてしまうことが多くて(笑)。紛失しても気軽に手に入るものがいいと思っています。なので、会社と家の両方に同じペンを置いています。あちこちに置いておき、いつも同じ書き心地で書けるようにしています。

――メモの文字は、色分けしていますか?

下地:色分けについてもよく質問されるんですが、これは性格によりますね。

 僕は「皆さんの部屋は散らかっていますか、整理されていますか?」と聞くようにしています。その理由は、部屋がいつも整理されているくらい几帳面な方なら多色使いでもいいと思うからです。

 ただ、どちらかというと大雑把な性格の人は色分けをしても使いこなせなくなると思うので、1色でいいんじゃないかと思います。

 ちなみに僕はブルーブラックか黒のペンで文字を書き、振り返るときに、赤ペンかイエロー色のマーカーで色をつけるぐらいです。

 基本的には、文字を書く色と振り返る色の2色あれば十分だと思います。

【大好評連載】
第1回 【コクヨのトップ社員が答える】ノートは1冊にまとめるべきか? キレイに書くべきか?

「スマホメモ」を、今すぐ「手書きメモ」に変えたほうがいい4つの理由下地寛也(しもじ・かんや)
コクヨ株式会社 ワークスタイルコンサルタント
エスケイブレイン 代表
1969年神戸市生まれ。1992年文房具・オフィス家具メーカーのコクヨに入社。オフィス設計者になるが顧客対応が下手すぎて、上司や営業に怒られる日々が続く。常に辞めたいと思いながら働いていたが、5年後、コクヨがフリーアドレスを導入したことをきっかけに「働き方とオフィスのあり方」を提案する業務に従事し、ワークスタイルを調査、研究する面白さに取りつかれる。以来、行動観察、デザイン思考、ロジカルシンキング、リーダーシップなど、働く人の創造性と生産性を向上させるスキルやマインドの研究を続け、これまでにビジネス書を当書籍を含め10冊出版。常にメモを取りながら、自由で豊かな働き方を実践するためのアウトプットを続けている。
コクヨにおいても、顧客向け研修サービス、働き方改革コンサルティングサービスの企画など数多くのプロジェクトマネジメント業務に従事。未来の働き方を研究するワークスタイル研究所の所長、ファニチャー事業部の企画・販促・提案を統括する提案マーケティング部の部長などを経て、現在はコーポレートコミュニケーション室室長としてコクヨグループのブランド戦略や組織風土改革の推進に取り組んでいる。同時に新しい働き方を模索して複業ワーカー(エスケイブレイン代表)としてのビジネススキルに関するセミナーや講演、YouTube動画配信などの活動も積極的に行っている。
「スマホメモ」を、今すぐ「手書きメモ」に変えたほうがいい4つの理由