中東カタールで開催されているサッカーのW杯で、日本代表が23日午後4時(日本時間同10時)から、4度の優勝を誇る強敵ドイツ代表とのグループステージ初戦に臨む。ドーハ市内で調整中の日本チームは代表専属シェフを務めて19年目になる、西芳照さんが腕を振るう勝負メシでさらなるパワーを付けて勝利を目指す。その勝負メシにはルーティーンがあるという。その中身とは?(ノンフィクションライター 藤江直人)
カタールで日本代表を支える
専属シェフの存在
ドイツ代表とのグループステージ初戦へ向けたカウントダウンが始まるとともに、中東カタールの地に滞在している日本代表選手たちの胃袋も勝負メシで満たされるようなる。
試合3日前はハンバーグ。2日前は銀ダラの西京焼き。そして、前日はウナギのかば焼き。代表の夕食メニューの中にルーティーンが生まれて久しい。白いコックコートの左胸の部分に、選手たちと同じ八咫烏(やたがらす)のエンブレムを付けて料理の腕を振るうのは代表専属シェフの西芳照さんだ。
「いつの間にか当たり前になって、出さないと逆におかしなことになるんじゃないかと」
勝負メシの順番が選手たちの中で定着し、代々にわたって受け継がれていると苦笑する西さんは福島県南相馬市の出身。日本代表もよく利用した同県内のトレーニング施設、Jヴィレッジの総料理長を務めた縁で、日本代表の海外遠征に同行してほしいと2004年3月に初めて依頼された。
遠征先のシンガポールで専属シェフの大役を務めた西さんは、2年後の06年にドイツで開催されたW杯にも帯同。以来、W杯連続出場を継続中で、カタール大会が5度目となる。
「気がついたら5回目だった、というのが率直なところです。仕事として行く、と言うとちょっと違うかもしれません。家族の一員として、みんなのご飯を作りに行く、という感じです。特に選手のみなさんからは、練習から帰ってきたときに『食事だけが楽しみだ』とよく聞きます。だからこそおいしくて、テーブルの雰囲気がにぎやかになる料理を作らなきゃいけないと思っています」
故郷にあるJヴィレッジに戻る前は、都内で懐石料理店の総料理長を任されたキャリアを持っている。しかし、代表専属シェフとしてすべてが順風満帆に進んだわけではなかった。