チャンスはあと2回!? さよなら!生前贈与 #1Photo:RUNSTUDIO/gettyimages

政府、与党は、生前贈与を活用した相続税の節税術を大幅に制限する内容を、2023年度の税制改正大綱に盛り込む方針を固めた。生前贈与の「節税つぶし」を含む、相続税・贈与税のルール改正案の骨子が関係者への取材で判明した。実質的な相続税の増税だ。特集『さよなら!生前贈与』(全9回)の#1では、12月15日にも公表される、23年の相続・贈与ルール大改正の全貌を詳報する。(ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)

生前贈与「7年前」まで相続財産に加算
相続税増税前に「駆け込み贈与」急増中

 財産を生前に分割して贈与する場合、相続税よりも低い税率が適用される――。

 生前贈与を活用した「節税術」にいよいよメスが入る。相続税・贈与税のルール変更を議論する政府税制調査会の専門家会合は11月8日、冒頭のように現行制度の問題点を指摘。「より中立的な税制を構築していく必要がある」と提言した。

 相続税の節税の基本は、相続財産を減らすことだ。そのため生前贈与は“最強”の相続対策として広く利用されてきた。

 贈与税には年間110万円までの贈与ならば非課税となる基礎控除がある。毎年110万円ずつ生前贈与して、10年間で1100万円分の相続財産を減らすといった手法は“鉄板”の対策だ。

 例えば1億円の資産を持ち、2人の子供がいて、配偶者に先立たれた親が亡くなった場合、何もしなければ770万円の相続税がかかる。

 一方、2人の子供に毎年110万円ずつ10年間贈与を続けて資産が7800万円まで減った場合、相続税は440万円だ。差し引き330万円節税できたことになる。

 さらに、資産が多く相続税率が高くなる富裕層の場合、この110万円の非課税枠を超えた生前贈与で贈与税を支払ったとしても、贈与額によっては相続税の節税効果の方が大きい場合がある。

 生前贈与を活用した節税術が封じられ、相続税が大増税されてしまう――。

 相続税・贈与税のルール改正に向けて「本格的な検討を進める」との一文が2021年度の税制改正大綱で記されたことで、関係者の間でこうした認識が共有された。そして、制度改正前に「駆け込み贈与」して節税しようという動きが広まった。

 実際に、21年の贈与件数は急増している。国税庁のまとめによれば、21年分の確定申告で贈与税の申告書を提出した人は前年比9.5%増の53.2万人。申告納税額は同20.0%増の3327億円だった(下図参照)。

 21年にはルール改正の実施や賃金アップといった贈与を促すイベントは特になかったため、駆け込み贈与によって増えたとみていいだろう。

 もともと、亡くなる直前に贈与して相続税から逃れることを防ぐため、相続開始3年前(つまり死亡3年前)以内の贈与については、相続財産に加算して相続税を課税する「持ち戻し」という制度がある。このルールは1958年度の制度改正で作られたものだ。

 今回、政府税調は専門家会合での議論を踏まえ、この加算期間を現行の3年から5~10年に延ばすことが適当だとする見解を示した。そして、政府、与党が12月15日をめどに公表予定で取りまとめを進めている23年度の税制改正大綱で、加算期間を「7年」に見直す方向で調整していることが関係者への取材で分かった。

 つまり、亡くなる10年前から毎年110万円ずつ生前贈与していた場合、従来は1100万円のうち330万円分が相続財産に加算されたのに対し、改正後は770万円分が相続財産に加算されて課税対象になる。相続税の増税につながる65年ぶりの生前贈与のルール大改正だ。

 加算期間の延長の他にも、一部の贈与を非課税とする特例の廃止といった、生前贈与の「節税つぶし」が23年度の税制改正大綱には盛り込まれる見込みだ。こうした内容を含む相続税・贈与税のルール改正案の骨子が、ダイヤモンド編集部の取材で判明した。

 23年度の税制改正大綱で、大きくメスが入る生前贈与を使った節税術。相続税・贈与税はどう変わるのか。次ページでは、相続税・贈与税の大改正の全容を詳報する。