さよなら!生前贈与 #7Photo:Fuse/gettyimages

生前贈与のルール改正は税理士業界にとっても一大事だ。相続財産に加算される生前贈与の期間が従来の3年から延長された場合、必然的に業務量が増えるからだ。特集『さよなら!生前贈与』(全9回)の#7では、大混乱必死の制度改正に悲鳴を上げる税理士の声をお届けする。(ダイヤモンド編集部 野村聖子)

業務量が増え責任が増すなら
顧問料を値上げするしかない

「顧問料を値上げする」――。

 東京都下で税理士法人を営む村山義広氏(仮名)は、相続財産に加算される生前贈与の期間が3年から7年に延長される見込みだという報道に、ため息をつきながらこう口にした。

 個人の顧客のうち、自ら帳簿を付けている人はそもそも少ない。3年ならまだしも、7年前の通帳を保管している人もほとんどいない。入出金の記録がない場合、税理士が口頭で顧客に確認することになるが、「万が一漏れがあって、自分まで税務調査に巻き込まれたらたまらない」(村山氏)。

 2023年度の税制改正大綱で、生前贈与のルールが大きく変わる見通しだ。

 ルール改正で実務が煩雑になる上に、責任も大きくなるとくれば、あとは金で解決するしかない。それで冒頭の言葉が口をついて出てしまったというわけだ。

生前贈与の加算期間の延長により、「相続税の申告書作成はこれまで以上に面倒になる」生前贈与の加算期間の延長により、「相続税の申告書作成はこれまで以上に面倒になる」と税理士の村山義広氏(仮名)は嘆く Photo:PIXTA

「業務が著しく圧迫されそうな予感がする」

 こうぼやくのは、北陸地方在住の税理士の古川恵氏(仮名)だ。生前贈与の加算期間が延びた場合に税理士の負荷が増えるのは、「富裕層ではなく、個人の顧客だ」と古川氏はみる。

 15年の税制改正で相続税の基礎控除が減額された結果、相続税を支払わなければならない人が増えた。相続財産が1億円未満であっても、相続人が1~2人ならば相続税の申告が必要になることも少なくない。そして、「この資産層には、毎年少額の贈与をあちこちにしている人が意外に多い」(古川氏)。

 加えて、相続はいつ発生するか分からないため、業務量のコントロールが難しい。確定申告など繁忙期と重なってしまった場合の業務負荷は悩みの種だ。

「税制改正は富裕層がターゲットのはずなのに、結果的に中間層にちまちま課税する仕組みになっている。今の税率では税収にも大して影響はないのでは」と古川氏はこぼす。

 生前贈与のルール改正で業務量の増加を警戒する税理士たち。次ページでは、税理士が予測するさらなる相続税増税の法改正の行方や、トラブルに巻き込まれないための対策をお届けする。