生前贈与#1Photo:PIXTA

相続税と贈与税の一体化――。生前贈与を使った節税術をつぶし、相続税を大増税するというこの言葉に業界は大騒ぎだ。いったい何が問題視されているのか。特集『生前贈与 節税チャンスは今のうち!?』(全7回)の#1では、生前贈与を巡る税制改正の舞台裏を追った。(ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)

「週刊ダイヤモンド」2022年4月30日・5月7日合併号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

贈与税のルール改正セミナーが2000人集客
生前贈与の節税術はひとまず「延命」

「贈与税の制度改正をテーマにしたセミナーに、こんなに人が集まるなんて」

 こう驚きをあらわにするのは、大和証券の担当者だ。

 2021年1月、大和証券は社内に特別チームを立ち上げた。「暦年贈与改正対応チーム」と名付けられたこの組織には、顧客の資産管理やシステム開発、販促物の作成など部門の垣根を越えた約10人が集まった。発足のきっかけは、21年度の税制改正大綱に書かれた一文である。

「相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、(中略)資産移転時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める――」

 この文が意味するのは、相続税対策の「王道」である生前贈与を使った節税術を禁じ手とし、相続税を大増税する、ということだ。

「顧客にネガティブな情報でも、他社より早く伝えるインパクトはある。大和証券は詳しいと思われないといけない」(担当者)

 チームは早急に、社内約190人の相続専門部隊への研修を始めたほか、ルールが変われば税負担がどうなるかという試算ツールなどの開発に乗り出した。

 そして21年2月ごろから、相続専門部隊が顧客に情報提供を始めたという。改正でルールがどうなるかまでは断言できないため、「贈与税に関する議論があります」と状況説明にとどめたものの、「相当な驚きを持って受け止められた」(担当者)。

 そして21年8月、贈与税の改正をテーマにしたオンラインセミナーを開催。すると、出席者が2000人を超えたのだ。参加者の84%が60代以上。新型コロナウイルスの感染拡大前にホテルなどで開催したセミナーでこれほど集客できたことはない。

 オンラインセミナーでは、外国株をテーマにした際の約2000人が最高記録だったが、贈与税の改正はそれに匹敵する集客力を持っていたのだ。

 先んじて顧客への情報提供に動いた恩恵はあった。複数の顧客から、「大和証券は詳しいから、そちらの口座に資産を移し替える」という反応があったという。

 早ければ22年4月にルールが改正される可能性もあったため、関係者の注目を集めた22年度税制改正大綱。そこで相続税と贈与税の一体化は「本格的な検討を進める」という前回同様の記述で、継続審議が決まった(下図参照)。

 目下の関心は、23年度税制改正大綱での扱いがどうなるかだ。

「21年はルール改正の議論があるという話題だけで関心を持ってもらえたが、今は顧客の理解も深まっている。われわれも常にもっと詳しくないといけない」と大和証券の担当者は気を引き締める。

 生前贈与を使った節税術が“延命”となった22年度税制改正大綱。なぜ継続審議となったのか。実は一部の関係者の間で、22年に改正する可能性はそれほど高くないだろうという見立てがあった。

 いったいなぜか。